【保育バカ一代】vol.29 あなただけ見つめてる
コラム 2024.11.25【保育バカ一代】vol.16 ザ・ファーブル
ハッキリ言って、私は虫が苦手だ。だが悲しいことに、男の保育士というのは虫が得意だと思われやすい。これはもはや宿命である。
虫が大好きなTくん(5歳)が、団地の1Fエントランスの隅っこで「なんかいるー!」と声を上げた。そこには赤い粒々が集まってひとつに固まったような、直径1cmくらいの謎の物体があった。はじめは植物の種か何かだと思ったが、よく見るとその物体はゆっくりと、モゾモゾ……モゾモゾ……と動いていた。
私の背中にゾワゾワッと悪寒が走った。
「さわってみてー」とTくんは言うが、冗談じゃない。私は近くに落ちていた小さい木の棒を拾い、それでつつくことにした。本当はわざわざこんなことしたくないが、指で触るよりはマシだろう。
私は謎の物体を棒でツンツンとつついてみた。すると、赤い粒々の固まりがワラワラワラ~とゆっくりほぐれ、ひと粒ひと粒がその全容を現した。
アリ?でも動きが遅い。それに全身が赤い。そして顔がデカい。謎の物体の正体は、そんな得体の知れない虫が10匹ほど固まっていたものだった。Tくんは興味津々にそれを眺めていたが、私はギャーと叫びたいのを必死にこらえていた。
数日間うなされた私はこの忌まわしい記憶を払拭すべく、勇気を出してあの虫のことをネットで調べた。
「アズマオオズアリ」
特定の巣を持たずに集団生活をしている、日本原産のアリの一種だという。ヒアリではないことはわかっていたが、在来種と知り少しだけ親近感が沸いた。
後日、あの場所に彼らはいなかった。Tくんと一緒に周辺を探すと、団地の前の植え込みのところにいた。やはり密集してひとつになっている。仲間と共に住み家を移しながら暮らしているなんて、遊牧民のようなアリだと思った。
決して虫を好きにはなれないが、子どもの「好き」と向き合ったことで、またひとつ新事実を知ることができた。たまにはこういうのも悪くない。たまになら。
事務局スタッフ“しげさん”による温かく、時にユーモラスな保育エッセイ♪
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