【保育バカ一代】vol.29 あなただけ見つめてる
コラム 2024.11.25【保育バカ一代】vol.7 Tくんと謎のマジシャン
Mr.ロバート。それは昔、ある保育園のお誕生日会やクリスマス会に現れた、謎のマジシャンの名である。
まあ正体は私なのだが、チョビヒゲと蝶ネクタイだけのバレバレな変装で、名前も当時の園長がテキトーにつけた。クルクル巻いた新聞紙を一瞬で花に変えたり、蓋を開けずにペットボトルの水をジュースに変えたりと、子どもが見てもわかりやすい手品を披露した。
手品を終えた私が変装を解いて保育に戻ると、5歳から6歳の園児たちがニヤニヤしながら「あれ~?しげ先生、手品の時はどこにいたの~?」と聞いてきた。私も笑って「うん、ちょっと用事」とシラをきった。わかりきっていることをしらじらしく聞いてくるところが、さすがもうすぐ一年生の子どもである。
ところがある日、6歳のTくんが真剣な表情で私にたずねてきた。
「ねえ、誰にも言わないから教えて!ロバートさんの正体はしげ先生なの?」
私は驚いた。みんなにバレバレだと思っていたMr.ロバートの正体が、Tくんにとってはまだ謎だったのだ。だが、ここで「えー!知らなかったの?」などと言うのはヤボだろう。それではあまりにもTくんが気の毒である。私はTくんの申し出を受け入れ、真面目に質問に答えることにした。
「本当に誰にも言わない?」
コクンと頷くTくん。
「約束だよ」
さらに強く頷くTくん。
私はわざとらしく周囲をキョロキョロ見回して、Tくんにそっと耳打ちした。
「……そうだよ」
Tくんはニマ~と笑みを浮かべ、納得したようにウンウンと頷いた。まるで「僕だけが知っている、しげ先生の秘密」と言っているかのように(みんな知っているけど)。Tくんと私との間に、男と男の約束が交わされた瞬間だった。
あれから十数年、Tくんは今もあの約束を守り続けているのだろうか。
事務局スタッフ“しげさん”による時に温かく、時にユーモラスな保育エッセイ♪
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