【保育バカ一代】vol.29 あなただけ見つめてる
コラム 2024.11.25【他団体・多職種による情報共有・事例検討会】vol.4 都内宿所提供施設
2022年12月13日(火)、日本財団の助成事業『訪問型養育支援強化事業』の一つである『他団体・多職種による情報共有・事例検討会』の第四弾を開催しました。
今回は「宿所提供施設」における制度の狭間の問題や事例についてです。
この助成事業を通して、私たちは宿所提供施設にお住まいの親子に出会いました。そして、支援を必要としているのに公的な支援を受けることが難しく、まさに制度の狭間にある課題を知りました。
『宿所提供施設とはどんなところなのか?』
『なぜ、制度の狭間の問題が起きてしまうのか?』
そこで、都内の宿所提供施設で生活支援員をされているSさんに詳しくお話を伺いました。
―最初に、宿所提供施設とはどんなところなのか教えていただけますか?
宿所提供施設とは生活保護法第38条6項に基づいた施設の一つです。基本的には生活保護を受給されている方のみの入居となっておりまして、一時的にお住まいを失いお困りの方々に住宅扶助を行って生活の立て直しを図っていただく施設です。
入所の期限は3カ月です。基本的に女性単身か、母子の方のみの入所となりまして、時々ご夫婦で入居される方もいらっしゃいます。
―私たちが知っている他の宿所提供施設では女性棟と男性棟と分かれていましたが、こちらは女性単身と母子が主に入居できる施設なのですね。
はい。そうです。施設によって受け入れる方々が違います。
―どんな方が入居されているのですか?
DV(ドメスティック・バイオレンス)からの避難として入居されている方が多いです。
離婚して家から出ていけと言われてしまった方、仕事を失い、社員寮から出なくてはならなくなった方、家賃滞納などで住まいを失った方もいらっしゃいますね。
―入居される方はどんなルートでこられるのですか?施設に直接飛び込みでくる方もいらっしゃるのでしょうか?
こちらに直接飛び込みで来られたり、電話をかけてこられることはありません。
基本的に皆さん福祉事務所からの紹介になります。例えば、DVからの避難の方だったら、警察に相談をして、警察から福祉事務所に連絡が入り、福祉事務所から施設を紹介する流れになります。
―最終的には福祉事務所からの紹介で入居されるのですね。施設は常に満床なのでしょうか?
そこまでではないです。半分より少し多いぐらいです。
―入所期間はどのぐらいの方が多いのですか?
人によってまちまちですね。早い方ですと1週間ぐらいの方もいらっしゃいます。
もともと家を探していました、という方は新しい家が決まり次第施設を出られますね。
期限は基本的には3ヵ月と短期間ではありますが、利用者さんが焦らず課題に取り組んでいけるよう、できる限りサポートするようにしています。ただし、何らかの理由で次の住まいが見つからなかった場合は、6ヵ月までは延長できます。
―こちらから別の機関や施設に移られる方もいるのですか?
母子生活支援施設や更生施設に行く方はいらっしゃいます。
でも、ほとんどの方は個人でお住まいになるアパートに行かれます。
―こういった宿所提供施設は都内には数多くのあるのでしょうか?
いえ、宿所提供施設自体が保護施設の中でも更生施設と比べると少ないです。少し増えてはいるようなのですが。
―今、更生施設というお話がありましたが、これはどんな施設なのですか?宿所提供施設との違いはありますか?
更生施設は身体や精神の障害により地域生活が困難で、かつ生活に困窮している方が入所される施設です。でも、いずれは地域生活に移行できるだろうということで自立に向けての援助や支援も行います。
一方、宿所提供施設は住宅のない方に向けて住宅を提供する施設です。基本的に誰の手を借りなくてもお一人で暮らすことができることが条件で、いわゆる箱貸しの施設です。
ただ実際は住宅を提供するだけではなかなか地域生活に移行するのが難しく、施設の支援員と一緒に頑張っているという方が多いです。
精神疾患がありお薬を飲まれている方もいらっしゃいますが、入所条件でもある衣食住は自分ででき、自立はされています。
―なるほど。保護施設によって入所条件があるのですね。
ただ、箱貸しといっても実際は複雑な事情を抱えていらっしゃる方が入居されていますのでその方に合わせての支援は必要ですよね。
その中でもDVから避難されている方が多いとのことですが、施設としてはシェルター的な位置づけもあるのでしょうか?比較的オープンにされているようにも思うのですが。
そうですね。オープンな感じではありますが、住所や電話番号などは公開していないので一応シェルターでもあります。
―施設としてのルールや気をつけていることなどはあるのでしょうか?
基本的には、原則、外泊や面会は禁止しています。
DVから避難されている方には、それぞれの加害男性側の行動範囲などがあると思うので、そちらのほうには行かないようにしてもらうなど、行動制限はあります。
ースマホの管理まではされていないですよね?
はい。していないです。そのあたりは利用者にお任せです。「(加害男性とは)連絡は取らないでね」、「GPSはちゃんと切ってね」、「SNSは位置情報をオフにしてね」などは伝えていますが、皆さんのスマホを見るわけではないので実際のところはわかりません。
―もう少しこちらの施設について教えてください。
特色として「子ども支援事業」というものがあるそうですが、どういったものなのでしょうか?
これはモデル事業としてまだ数か所の施設でしか実施されていないのですが、私たちのような生活相談員とは別に子供支援員が常勤で2名配置されています。遊び場としての集会室もあります。
利用者のお子さんの中には保育園や学校に通えていない子もいるので、子ども支援員との交流を通して、遊びや学習を経験し、安心して過ごしてもらうことを目的にしています。
お母さん自身も、その間少しお子さんと離れることで休んでもらいたいと思っています。
ー預かり保育ではないのですよね?
そうです。お母さんがどこかに行かれる際にお子さんを預けるというものではなく、お母さんは必ず自室にはいていただいて、例えば、お怪我をしたなど、そういう時にはすぐに連絡がつくようにはしてもらっています。
―ちなみに、入居者同士の交流などはあるのですか?
コロナ禍の前は、集会室にみんなで集まってクリスマス会や懇親会をやっていました。避難訓練もみんなで行っていましたが、今は全部の行事が世帯単位になっています。本当はみんなでワイワイできると良いのですけどね。
―ありがとうございます。
ここからはSさんの生活支援員としての具体的なお仕事内容を教えていただけますか?
私は社会福祉士でして、主に皆さんの生活の相談を受けています。「お部屋が寒い」というような日常生活の要望はもちろん、施設にいる間に通う病院探し、新しいお家探しもします。
世帯ごとに必要な社会資源を探して、調整(コーディネート)もしています。
あとは、定期的に皆さんと面談をして「お困り事はないですか」とお話をお聴きし、その都度、一緒に解決するようにしています。
―定期的な面談もあるのですね。差し支えない範囲で教えていただきたいのですが、お困りごととしてはどんな内容が多いのですか?
やはり次に住む転宅地域についての悩みはよくお聞きします。
子育ての悩みも多いです。例えば「最近、子どものイヤイヤがひどくて…」ですとか。
不眠症状を抱えている方も多いので、「眠れていない」というお話も出ます。
施設なので、毎朝、安否確認カードというものを出してもらっていますが、不眠や体調不良について書かれている方が多いです。
―定期的に悩みや心配事を聞いていただけるというのは利用者にとっても安心ですね。
こうした利用者に寄り添った支援をされながら、施設にいる間だけではなく、その先の生活に必要なことも多岐にわたりコーディネートされていると思いますが、難しさを感じる点はありますか?
離婚が成立していない利用者への支援です。離婚が成立していないと住民票が移せないですし、住民票を移せないといろいろな支援が使えません。保育園などは入園できますが、その他の子育て支援となりますと受けられなかったりします。
以前、行政に食事を作るボランティア派遣の事業を利用したいと相談したとき、「施設にいる間は使えません」と言われました。
―それは区民ではないからということですか?
それもありますが、何かの施設にいると対象外になる、ということらしいです。子育て支援事業の多くが区民を対象としているため、資源があるのに使えないという歯がゆい思いをすることがとても多いです。
特にDVから避難しているお母さんたちは離婚がすんなり成立しない方が多くて、住民票を移していないので必要な支援につながりにくいのです。
また、何をするにもDV証明が必要ということもあります。新型コロナウイルスのワクチンすらなかなか打てません。
必要としている方がいるのに使うことができない、まさに区の事業の狭間、制度の狭間だと思っています。
―それぞれの事情を汲んでもらえず、区民という括りでしか支援を受けられないと、どうしてもそこからこぼれてしまう方が出てしまいますよね。
学校や勉強の課題もありますね。学校になかなか行けない子やオンラインで勉強している子を対象に学校とは別の場所にサポート教室があり、そこで先生と一緒に宿題などの勉強ができる制度があります。
でも、そこに利用の問い合わせをしたら、「区民でないとちょっと難しい」、「区立の学校に通っていないと難しい」と言われました。ですので、子どもの勉強サポートという面でも難しさを感じています。
―その他、難しさや限界を感じる点などはありますか?
限界を感じるということでは、ファミリーサポートや子ども広場等、区民でなくとも利用可能な子育て支援の事業ですが、お母さんの中には「支援を受ける」ということ自体に抵抗感を持っているかたもいらっしゃいます
やはりお母さんが支援や社会資源を使うことに前向きでないと私たちは何もできません。
支援を使うことの慣れもあると思いますので、最初の一歩を踏み出すためのお伝いが出来ればと考えています
あとは、行政の制度は決まるまでにすごく時間がかかります。支援の申し込みをしてから決定まで2カ月ぐらいかかってしまうこともあります。困っているのは「今」なのに、とつくづく思います。
―今こそ支援が必要なのに、と思いますよね。
私の業務の中でも、できることとできないことがあります。例えば利用者のお部屋で料理を作ってあげるというような家事のお手伝いはできませんし、お子さんを預かることもできません。
目の前でお母さんが「子どもの夜泣きで眠れない。寝る間だけ子どもを見ていてほしい」とか「ちょっと病院に行きたいから子どもを預かってほしい」と言われても支援ができないので、もどかしさを感じるときもあります。
―それはもどかしいですね。でも、具体的なお手伝いが難しくても、定期的な面談などを通してお話を聴いてくれたり、常に伴走してくれるSさんにきっと救われている方はいると思います。
制度の狭間問題はもちろん、Sさんができること、できないことの線引きの中でも色々考えることが多いと思いますが、それを踏まえて「こういった制度が使えたら」、「ここは何とかしてほしい」など、感じる点はありますか?
ともかく区の住民票がなくても、保育や配食、学習支援など利用者にとって今必要と思われる制度が使えたらいいですね。
―本当ですね。特に学習支援は民間のNPOなどが区からの委託で活動しているところが多いと思いますので、区が利用を認めていただけたら良いですね。
なんなら、仮の住民票のようなものを発行してほしいとさえ思います。
―仮の住民票!いいですね!
やはり実際の住民票を移すことは、避難されてきた方にとっては居場所が知られるというリスクがあるのですよね?
そうですね。離婚ができていないと夫も含んだ住民票から抜けることになるので、転出先が分かる可能性があります。
―転出の記録が残ってしまうのはやはり心配ですね。住民票はそのままで居場所はわからないようにしておき、避難先で住民と同じ支援を受けられるような一時的な住民票のようなものを発行してもらえると良いですね。
そうですね。その他にも身分証が作れない問題があります。例えば、免許証を持っていない方は健康保険証を身分証の代わりにする方が多いのですが、生活保護の方は健康保険証も回収されてしまうので手元に身分証が全くなくなってしまいます。
マイナンバーは、自分の住民票があるところに手続きにいかないといけないので、それも作れません。そうなると家を借りることも難しくなります。
夫が番号を知っている携帯電話を替えたくてもその手続きが複雑だったり、口座開設が難しかったりと生活していく上での基本的なところで問題が生じます。
―住民票や身分証は持っている人にとっては制度が使えて守られているわけですが、それゆえに持てなくなってしまった人にとっては生活全般に大きな影響が出てしまうのですね。これも制度の狭間の問題であり、実際に取りこぼされている方がいるわけなので、何か対応策を考えてほしいですね。
最後に、お話いただいたような様々な難しい問題がある中でも、利用者からはやはり感謝されたり、喜ばれたりすることもたくさんあると思いますが、やりがいを感じるのはどんな時でしょうか?
皆さんお家が決まると安心して退所していかれますが、その後どうされているかはわからないので、退所したあとに連絡をくださったり、お手紙をいただいたりすると嬉しいですね。ちゃんと生活されていることがわかると本当に良かったと思います。
―バディチームの訪問支援も訪問が終了するとそのご家庭の情報は一切入ってきませんので、Sさんのお気持ちはよくわかります!
私たちが関わらせていただくのはご家庭の人生にとってほんのわずかな期間かもしれませんが、お手伝いができたことで少しでも元気になられたり、新しい一歩を踏みだしていただけたら本当に嬉しいですね。
あらためて、この度は貴重なお話をありがとうございました。