特定非営利活動法人バディチーム
インタビュー 2022.02.18

【インタビュ-】vol.5 地域の身近な相談相手として子どもたちの安全と安心を見守る!主任児童委員とは?

バディチームと近い分野で活動されている団体や個人の方へのインタビューをお送りします。

今回登場していただくのは、文京区の主任児童委員をされている山野順一朗さんと佐治信子さん。

昨年11月に民生児童委員の方々が集まる「文京区駒込地区四者連絡協議会」にて代表の岡田が講演をさせていただいたことをきっかけに、もう少し皆さんの活動について知りたいと思いました。

 

民生児童委員とは「民生委員法」「児童福祉法」に基づいて厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員で、それぞれの地域で住民の相談支援や見守り支援などを行っています。身近な相談相手として住民と行政や専門機関をつなぐパイプ役でもあり、地域福祉をサポートする存在です。

すべての民生委員は児童委員も兼ねていて、その中でも「主任児童委員」の山野さん、佐治さんは児童に関することを専門的に担当されています。

 

 

今回は主任児童委員のお仕事内容を中心に、そのやりがいや地域住民との関わり、活動に対する思いなどをお話いただきました。

 

山野順一朗(やまのじゅんいちろう)さん ※主任児童委員歴6年

佐治信子(さじのぶこ)さん ※主任児童委員歴9

 

―まずは主任児童委員のお仕事内容を教えてください。

 

佐治さん(以下、佐治) 定期的に行っているのは保健センターや児童館などで子どもの体重測定のお手伝いや行政が作成している子育てガイドのPRです。それ以外に大きな仕事としては、文京区の子ども家庭支援センターと連携しているので、そこから依頼された家庭の見守りや、心配な家庭があればこちらから子ども家庭支援センターに繋いだりもしています。具体的なケースとして、私は不登校やひとり親家庭の朝の登校支援も週に1回ぐらい関わっています。

 

山野さん(以下、山野) 泣き声や親の罵声の通報があったときは見守りに行っています。ただほとんどが何丁目の何番あたりという広い範囲だったりするので、場所を見極めるのが難しいですね。

 

佐治 そういうときは地元の民生委員にも協力をお願いして、朝の散歩や買い物時に泣き声が聞こえるかなど様子をみてもらっています。

 

―主に子ども家庭支援センターから見守り依頼の連絡があるのですね。登校支援のお話が出ましたが、なかなか民生児童委員の誰もができることではないですよね?

 

山野 基本的には、登校支援など具体的な支援は子ども家庭支援センターの仕事ですね。

 

佐治 他にもスクールソーシャルワーカーや教育センターの仕事でもありますが、その方たちも毎日はお手伝いに行けないので、「週1回ぐらいは主任児童委員さんもお願いします」と依頼されたことが何回かあります。

 

山野 私たちは子ども家庭支援センターに繋ぐことが仕事なのですが、それ以上のことをやっている人もいますね。

 

―頼まれてしまうとなかなか断れないですよね~。

 

山野 どうしても行政は夜中のサポートなどできないときがありますよね。たとえば「母子家庭でお母さんに健康面で心配なところがあるんだけど、24時間行政はサポートできないので、夜中にもし相談があったら受けてほしい」というような。行政の限界がある部分をこちらによろしく、というのはありますね。

 

佐治 年末年始や休日の連絡窓口にもなっています。

 

―夜中に相談があった時のために、みなさんの個々の電話番号はお伝えしているのですか?

 

山野 そうです。ただ実際に動いたことはないですね。安心材料としての連絡先でしょうか。

 

佐治 家庭に訪問して対面であいさつができたときは名刺を渡して、「何かあったときはここにかけてね」と伝えています。ケースを持った家庭で「何回か保育園に迎えにいってほしい」という電話をもらったことはありますが、今のところ年末年始などに連絡があったことはないですね。

 

―年末年始や夜中など行政がストップしているときの緊急時の対応を皆さんが担っていらっしゃるのですね。

 

山野 そうですね、こういうことは私たちの仕事なのかなと思っています。

 

佐治 行政の出来ないところを補ったりフォローするということですね。

 

山野 地域の面倒見のいい人、という感じですね(笑)

 

佐治 民生委員の人たちは自分たちのことを、おせっかいおじさん、おせっかいおばさん、と呼んでいるので、そういう役目だと思っています(笑)

 

―子ども家庭支援センター以外ではどういったところと連携をされていますか?

 

山野 学校との連携はありますね。通報するほどの心配なレベルになると、主に校長先生、副校長先生とやり取りしています。校長先生が子ども家庭支援センターに通報することのサポートもしています。

「心配な家庭があるんだけど、子ども家庭支援センターも児童相談所も忙しくて動いてくれないんです。どうしたらいいでしょうか?」というような相談もありますね。

 

―そういうときはどうされたのですか?

 

山野 これだけ危ないことがありましたよ、という情報を色々なところから集めてデータにしました。これがあれば子ども家庭支援センターも動いてくれるのではないか、と思ったからです。逆に学校と子ども家庭支援センターがしっかり繋がっているときは、私たちは何もしないですね。

 

―心配な家庭には直接行かれることもあるのですか?

 

山野 知っている家庭には訪ねて行くこともありますが、「ほっておいてよ」と言われることもありますね。

 

佐治 私もPTAで知り合いだった家庭の支援依頼がありましたが、知り合いには支援されたくないと断られたことがありました。

 

―知り合いゆえに、というところもありますよね。

 

佐治 そうですね、すべてうまくいくわけではなく、地元というのがいい意味でも悪い意味でも作用しますね。

 

 

―そもそもお二人が主任児童委員になられたきっかけは何だったのでしょうか?

 

山野 PTAの繋がりで頼まれたことがきっかけです。民生委員は町会や行政が適任者を見つけてくるのですが、主任児童委員はやめるときに次になる人を見つけなくてはならず、それで知り合いから声がかかりました。3年ごとに改選があります。

 

佐治 今の主任児童委員はほぼPTA関係の方が多いですね。現役のPTA会長もいらっしゃいます。

 

―ほぼ紹介なのですね。ところで、文京区ではどんな体制で活動されているのですか?

 

佐治 大きく4地区に分かれていまして、それぞれの地区に2人、富坂地区のみ3人の、計9人の主任児童委員がいます。ただ9人というのは東京23区では少なくて、他の区では二桁の人数の委員がいるようです。

 

山野 毎月、主任児童委員の会議がありまして、それぞれの地区の事例検討をして情報交換や連携を取っています。今はコロナでそれも出来ない状態ですが。

 

佐治 会議には子ども家庭支援センターや児童相談所、教育センターの方も参加してくれます。他の区の委員さんとお話したときに、その区では行政は会議に参加しないと聞いたので、文京区は恵まれていると思いましたね。

 

―主任児童委員の男女比や年齢はどれぐらいの方が多いのでしょうか?

 

佐治 今は男性4名、女性5名の半々ぐらいですね。年齢も50歳前後からもう少し上の年齢でしょうか。

 

―これだけの活動をされていても全くの無報酬、ボランティアなのですよね?

 

山野 いえ、活動費はいくらかいただいています。一応私たちは区の非常勤職員という位置づけになっています。

 

佐治 通信、交通費などの経費相当分ですね。ただ、いろいろ移動したり電話したりで超えることもありますが、あまり気にしていないです。

 

―お二人とも主任児童委員を長く務めていらっしゃいますが、時代とともに変わってきているものを何か感じますか?

 

佐治 昔は赤ちゃんの泣き声通報が多かったのですが、最近は「親がすごく怒鳴っている」「登校のときに親がランドセルを蹴っています」というような虐待通報が多くなりましたね。

 

山野 それから児童相談所が忙しくなって、私たちとコミュニケーションが取りづらくなりました。月1回のケース会議にも参加してもらえないことが多く、「守秘義務があるから情報を出せない」と言われてしまって。

 

佐治 昔はもう少し情報を教えてもらえていました。情報交換の場でもある会議なのに、こんなに情報をもらえないんじゃどう動いていいのか…。

 

山野 最近はコロナで会議すらできていないこともあり、悶々としちゃっています。

 

―あまりにも情報がないと見守りのしようもないですよね。

 

佐治 見守りの依頼をされても、詳しい情報が全くない中、2週間ぐらいただ見守りをして、結果だけ伝えるという状況だとちょっと虚しさを感じるときもあります。個人情報や守秘義務のことはわかるのですが、私たちも守秘義務を持って活動しているので、もう少し情報を開示してもらえたらもっといい形で連携できるのではと思います。

 

―大変なことも多いと思いますが、そんな中でもやりがいを感じる時やモチベーションはなんでしょうか?

 

山野 いろいろと頼られていると感じるときでしょうか(笑)

 

佐治 私は登校支援をしていたとき、最初はその子どもと少し距離がありましたが、だんだん声をかけてくれたり、心を開いてくれたときは安心しましたし、やっている意味があったのかなと感じました。

学校に顔を出したとき、PTAで行っていたときは歓迎されていたのですが、今の主任児童委員の立場で顔を出すと、行くたびに先生から「何かありましたか?!」と言われてしまうのはちょっと困りますが(笑)

 

山野 主任児童委員同士は担当地区関係なく仲が良くて、よく飲み会をやっていたので、それは楽しかったですね。今はコロナでできなくなってしまって残念です。

 

佐治 9人ぐらいがちょうど良かったんですけどね。

 

―いい交流をされていたのですね。そういった集まりは大事ですよね。

各地域にお二人のような主任児童委員や民生委員がいらっしゃるわけですが、皆さんの存在自体を知らない人もいるでしょうし、知っていても、突然相談の電話をしたり、訪ねていってもいいものなのか、わからない人も多いと思います。地域の人たちに向けて何かアピールはされているのですか?

 

佐治 幼稚園、小学校、中学校には主任児童委員や民生委員のチラシを置いてもらっていて、そこには各委員の連絡先が書いてあるので、園や学校には何かあったら連絡してください、と伝えています。

保健センターや児童館に行ったときは子育てガイドに私たちの連絡先が載っているので、それを使って私たちのことを紹介しています。

 

山野 児童館の赤ちゃんイベントの時には、一家庭ごとにこちらから声をかけて「何か心配なことはありますか?」と聞いたこともあります。ただ悩みとなると「最近、体重が増えないんですけど…」「離乳食どうしたらいいですか?」というような内容が多かったです。

 

佐治 それでも会話ができればいいかなと思っています。

 

―なるほど。そういった場で皆さんの存在を知ってもらっているのですね。

 

佐治 毎年9月に文京シビックセンターで行われている子育てフェスティバルでもティッシュや缶バッジなど民生委員のグッズを配っていたのですが、ここ2年コロナでフェスティバルができなかったので、その分を区内の小学校6年生の子どもたちに配りに行きました。卒業すると区立の中学校、私立の中学校とみんなバラバラになってしまうので、何かあったら相談してね、と思って。2年間、特に電話がかかってきたことはないのですが、世の中の相談相手として私たちもいるんだよ、ということをPRさせてもらいました。

 

山野 でも「(自分たちと)気軽に話せるんだよ」というPRの場はなかなか少ないかもしれませんね。ただ実際に電話がたくさん来てしまったら文京区の主任児童委員9名では受けられないかもしれません。

 

―実際に相談となると、例えば児童館に来ているママならまずは児童館の先生にするかもしれませんね

 

佐治 そうですね。児童館の先生から逆に私たちに、児童館に来ている家庭の見守りの相談が来たことはあります。

 

―児童館の先生は地域に住んでいないかもしれないので、何かあったときには地域で見守ってくださる皆さんの存在はやはり心強いですね。

最後に、今後の主任児童委員の可能性やどんな風にしていきたいかなどの展望がありましたら教えてください。

 

山野 今は子ども家庭支援センターや児童相談所のキャパが全然足りないと思います。サポートが必要な家庭はたくさんありますが、文京区という土地柄なのか、見た目ではわからない家庭も多いです。こども宅食などの取り組みもありますが、それも届かない家庭もあり、気がついたら危険なことになっていることもあります。主任児童委員に気軽に声をかけてくれるようなシステムがあり、それがすぐに子ども家庭支援センターに反映できるように子ども家庭支援センターのキャパも大きくしないといけないと思います。

あとは、バディチームさんのような第三者的にサポートできる方がもっといたらいいなと思います。

 

佐治 私も子ども家庭支援センターが抱えている件数がすごく多いと聞くので、それを聞くだけで自分たちができることは何だろう?と思います。文京区とはいえ貧困や格差はあるので子ども家庭支援センターや社会福祉協議会の人材をもっと充実させてほしいですね。私たちは出来る範囲が限られているのでもどかしく思うこともありますが、それぞれがうまくかみ合って動いていけたらいいなと思います。

 


【編集後記】

山野さん、佐治さん、ありがとうございました。詳しいお仕事内容を知ることができ、あらためて私たちも勉強になりました。行政の担えない部分をサポートし、何かあれば駆けつけてくれる距離で見守ってくれることは、地域住民にとって心強いと思います。その反面、顔見知りも多い地元ゆえの難しさがあることを知りました。だからこそ行政の舵取りのもと、私たちのような第三者的な存在とも連携し、私たちが具体的な家事や保育のお手伝い、支援が終了した後は児童委員さんたちがその家庭を見守っていく、というような役割分担の体制ができたらいいなと思いました。(文責:事務局 青木)

 

民生児童委員の歴史や制度などの詳細はこちらをご覧ください。

▼全国民生委員児童員連合会

https://www2.shakyo.or.jp/zenminjiren/

 

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