【保育バカ一代】vol.29 あなただけ見つめてる
コラム 2024.11.25【質疑応答】 vol.2「いま子どもと親は、だれに支えられて生きるべきか-里親家庭編-」
バディチームでは(公財)東京都福祉保健財団より 2 ヶ年度(2019~2020 年度)の助成を受けて、トークイベントを開催しています。
今年度は当初 5 月に開催予定でしたが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴って延期、さらに形態をオンラインに変更して、9 月 20 日に「いま子どもと親は、だれに支えられて生 きるべきか-里親家庭編-」を開催しました。
特設サイト:https://buddyteam0920.studio.site/
前回の記事では出演者のプレゼンテーションの内容を中心にレポートを掲載しました。
今回の記事は参加者との質疑応答の時間から質問を抜粋した形でイベントレポートをお届けします。
参加された皆様からは私たちバディチームの取り組みについての質問や、「里親に興味はあるけど、一歩踏み出せない」というような相談もありました。
それでは当日の質疑応答の様子をご覧ください。
<以下、本文中>
齋藤:齋藤直巨…一般社団法人グローハッピー代表理事
岡田:岡田妙子…NPO法人バディチーム理事長
濱田:濱田壮摩…NPO法人バディチーム理事
濱田:
よろしくお願いします。この質疑応答の時間は濱田が司会を務めさせていただきます。まず岡田さんに質問が届いています。
Q:養育困難家庭と里親家庭への訪問型支援を全都道府県で実施することが必要と思います。
①バディチームは国への働きかけをされていますか。
②全都道府県でこうした取り組みが予算化され、委託先が育っていくための道筋で必要と感じているものはありますか。
③ノウハウの研修会などは今後検討できますでしょうか。自治体によっては産後ヘルパーさんがいないところもありますが。
岡田:
今回のイベントでお話しした養育支援も里親支援も東京都ならではのようなところがあります。子ども家庭支援センターも東京都だけではないかという話も聞いています。児童相談所が一手に担うよりも、各地域の子ども家庭支援センターが力を持って、地域ごとの支援を増やしていく必要があります。しかし支援が足りず、予算も足りないのが現状です。
濱田:
ノウハウの研修会についてはいかがでしょうか。ぜひやりたいと思っているところですが。
岡田:
訪問型の支援を増やしていきたいところですが、やはり人手が足りません。バディチームは13区で養育支援を担当しています。自治体によっては複数の事業者が事業を受託していて、ベビーシッター会社や介護のヘルパー会社が受託している自治体もあります。バディチームはその中でも特に精神疾患をお持ちのご家庭など困難度の高いご家庭を担当させていただくことが多いです。しかしご家庭の段階や事情に合わせて様々な子育て支援は可能だと思います。
ベビーシッター会社さんは現に子育て支援を行っていたり、介護ヘルパーさんは家庭に入るのに慣れていたり、家事もします。そういったところ(担い手)が少しずつ増えるといいですし、共同研修も進めていきたいと思っています。
濱田:
ありがとうございます。続いては齋藤さんに2つ質問が届いています。
Q:里親は夫婦揃っていることが必須ですか。また『中野の子どもを中野のみんなで育てよう!』ということですが、同じ地域で育てるメリットはなんですか。デメリットはありますか。
齋藤:
最初の質問に関して東京都は夫婦揃っていなくても大丈夫です。
私の仲間には事実婚で里親をしている人もいます。また東京都ではシングルでも性的マイノリティーの方も里親になれることになっていますし、だんだんと増えていると聞いています。夫婦揃わなくてはいけないかどうかは、お住まいの地域で確認していただけたらと思います。ぜひ挑戦してください!
次に地域で子育てをするメリット/デメリットについてもお答えします。
まず地域で育てることは子どもの心にとっても、虐待から守るという意味でもメリットがあります。子どもにとって親と離れて暮らすのは大きなストレスです。知らないところに自分だけ連れて行かれて、知らない人に囲まれるなんて考えただけでも恐怖です。
そのため地域でサポートできる人が増えることで、子どもにいつもの生活を最大限残してあげられる環境を整えることにメリットがあります。
もう一つのメリットとして子どもが虐待されていた場合、いつもの先生、いつもの友達、いつもの環境であれば誰かが子どもの異変に気づきやすいわけです。それは子どもにとって自身の安全を守れる状況かなと思っています。
一方でデメリットは虐待を受けたお子さんを親から完全に離さなくてはいけないというときです。全く違う地域でお子様が安全に暮らせる環境を作らなくてはいけません。その場合は中野区で保護された子は中野区で必ず育てるということではなく、状況に合わせて他の地域と協力しながら子どもの安全を守っていくということになります。
そういう意味ではむしろ地域を飛び出していくことで、全ての子どもに「良い子ども時代」を担保することが必要だと思っています。
濱田:
ありがとうございます。次に新型コロナウイルス関連での質問です。
Q:コロナ禍で家庭への支援、介入が難しくなっていると思いますが、感染予防に留意しつつ、子どもの安全と家庭の安全を守る上で考えていることを率直に聞かせてください。
齋藤:
コロナの自粛期間中に里親仲間はかなり厳しい時間を過ごしていたと思います。私として一番大切にしているのは、確かにコロナというリスクに対して最善の対策をとらなければいけないんですけども、その中でたとえばオンラインで里親サロンを開き、その中でもう少し踏み込んだサポートが必要だったら個別に相談を受けています。
コロナの対応も大切ですが、コロナ禍において一人ひとりの心がどうなっているかに気を配りながら、寄り添いたいなと思っています。
濱田:
ありがとうございます。岡田さんはいかがですか。
岡田:
そうですね。感染拡大防止に努めつつも、非常事態宣言中も継続して取り組みをしています。ただ利用家庭の中にはコロナ感染を心配してストップすることも多かったですし、コロナを理由にして家庭訪問が全くできなくなった行政側の判断もありました。
支援者の方も高齢であったり持病があったり、それぞれ事情がある中で、お互いが大丈夫であれば、という範囲で活動を続けていました
また突然の一斉休校の期間はとても大変でした。なんとか普段より人員を増やすことができないかと、行政とは別に自分たちでサポートしてくださる方を募って対応していました。
濱田:
次に齋藤さん宛の質問です。
Q:先日の法改正で特別養子縁組の年齢上限引き上げ(6歳未満から原則15歳未満に引き上げ)がされたと思います。今後、高年齢の子どもの縁組が増えていく可能性があると思います。里親の御経験者として高年齢の子どもを育てる上で特に気をつけるべきだと思われることや、必要な支援についてお考えがありましたら教えていただけるとありがたいです。
齋藤:
高年齢の子どもを育てることは、すごく難しいと思います。まず大事なのが、そのお子さんの意思確認をしながら進めることです。信頼関係を築いた上で、本人が本当にどうしていきたいのか、本当に養子縁組がいいのかに関しても、その子が思っていることをしっかりと確認する必要があります。周りが思っていることと本人が思っていることが違うことが多いので。
例えば私と娘の話ですが、児相の対応について娘がいろいろと嫌になる時期がありました。この対応は子どもにとって負担だよなと考えて、娘に「うちの子になったらどうですか」と聞きました。そうしたら娘に「ありがたいですけど、お気持ちだけいただきます」と断られたことがあるんです。つまり彼女は名前も全てそのままが気に入っているから、自分のままで居たいということでした。
そして私はすごく失礼なことを言っていたなと思ったんです。つまり「私の家庭に入る方がこの子にとっていい」という考えがどこかにあったのではないかなと。それは子どもを馬鹿にしていることにもつながっていると思いました。差別や偏見みたいなものは無意識で誰にでもあると思うけど、失礼なことをしたなと思って娘に後から謝りました。
やはり高齢児であればあるほど自分のお話をしっかり聞いてくれる人と、信頼関係ができていくと思います。信頼関係ができていった延長線上に、子どもが縁組したいという気持ちがあるのであればベストかなと思います。
必要なのは、その子の目を見て、優しく話を聞く、話の内容を覚えているという、「ナイス!な親プロジェクト」(※) 里親のための12ヶ条の第一条の項目があてはまるかな、と思います。
※「ナイス!な親プロジェクト」…一般社団法人グローハッピーが主催した、里親に必要な子育てスキルを考えるプロジェクト。里親と子どもの他、弁護士や大学教授、精神科医など専門家も交えた「こども会議」「おとな会議」で議論を重ね、「里親の子育てスキル12ヶ条」をまとめた。
濱田:
今の齋藤さんのお話は「ナイス!な親プロジェクト」の「こども会議」で出されたテーマにつながる話だと思います。縁組をして家庭に入るときや、施設を出る選択の時に、子どもが自身の意志で選べる選択肢はあったのかということです。大人の側でそっちに行った方がいいよねということを決めちゃったりしていませんか、子どもの権利主体性を大事にすべきではないですか、というお話でした。そのような部分が高年齢だとなおさら意識されるべきかと思います。
ここで最初の山田さん(※)の発表の内容について私の方から質問させていただきたいと思います。
発表の中で「マハロツリー」というものが出ていました。その中にお子さんの名前の由来や、お母さんの趣味、好きな場所を実親さんが書き込んで施設に入るお子さんに渡すものです。施設に入って、その後には里親さんのもとに行くかもしれない子どもにも、実親がいるという、その関係性もつないで、養育のバトンを渡しているという丁寧な取り組みだと思います。
※山田さん…山田愛弓さん。聖友乳児院(社会福祉法人聖友ホーム)里親交流支援員。この日のイベントではVTRでプレゼンテーションのみの出演となった。
Q:岡田さん、齋藤さんの経験の中で実親さんとの関係をコメントいただけますでしょうか。
岡田:
私たちはまずは養育支援訪問事業で実親さん側にいるという部分もありますが、先程の山田さんの発表で紹介された「春ちゃん」のビデオも実親さんのことがすごく丁寧に描かれていて、愛情を感じるところがありました。宮島先生(※)がおっしゃっていた、「子どもの尊厳のためにも、実親支援が必要なんだ」という言葉が頭に残っています。子どもが社会的養育になったとしても、実親のことは社会福祉的にどうなっているのかなと気になってはいます。
※宮島先生…宮島清さん。日本社会事業大学専門職大学院教授。
濱田:
ありがとうございます。続いて齋藤さんはいかがでしょうか。
齋藤:
実親さんと関わったのは保育園のお友達が社会的養護の枠に入ってきたという背景もあって、そのお家とはいまだに親戚付き合いのようになっています。
また、産後うつで赤ちゃんを半年預けたというご家族とは今でも交流があって、子どもが育つのを喜び合う仲間みたくなっています。
去年はお母さんが産後うつの後に正社員になって復帰される中で、研修中に子どもを預ける先がないと相談がありました。そこでお子さんに「(うちに)遊びにくれば?」と言ったら、その子が「ママがいないとお泊まりはできない」というので、ママと二人で泊まりに来ました。
濱田:
すごい。そういうことって、よくある話ですか。
齋藤:
東京都では少ない事例だと思います。私の場合は児相の担当者にも信頼していただいて、今でもお互いに信頼できる子育て仲間になっているかなと思います。全部がそうとは言わないけれど、そういうこともあります。
濱田:
齋藤さんの発表の中にあった「保険としての里親」にもつながるのだと思います。大変な時にお願いできる関係が生まれているということかもしれませんね。
齋藤:
子どもにお金をかけて、保険をかけておいても、お金で解決できないことがたくさんあって、特に子育ては誰かが担わなくてはいけないわけです。義理の母が去年亡くなってしまったので、何かがあった時に頼れる里親仲間がいるのは助かりますし、そのような関係を作りたいと思っています。
濱田:
誰かに子どもを預ける必要に迫られる事情はたくさんあり、里親さんという手もあれば、施設でお願いしますという時もあると思います。そういう時は山田さんのお話のような、実親さんとの関係を切らさずに里親につなげるという活動もある一方で、バディチームの活動のように週に1回お手伝いに入りますというパターンもある。様々な形で家庭に入っていくという、里親さんの家庭に限らず全ての家庭のいろいろな事情に共通する話かなと思います。
齋藤:
例えば海外だと、子どもが所属していたスポーツチームのコーチを信頼していて、そのコーチに里親になってくれませんか、とプロポーズしたという話も聞きました。その結果コーチが里親になったそうです。もっと気軽に人と人のコネクションを元に子どもが安心する環境を作ればいいのかなと思います。
濱田:
ありがとうございます。それでは、次の質問にいきます。
Q:里親研修が難しいと聞きました。あきらめるケースはありますか。
登録前で辞退されることが多いというニュアンスだと思います。
齋藤:
自分にはできないのではと不安になって辞退される方はいると思います。預かる前にいろんな先輩の方の声を聞いてやめる方もいらっしゃいます。
濱田:
里親の体験発表会は「大変だけど、意義深いものでした」というポジティブなメッセージを受け取るような印象があるのですが。
齋藤:
そういうふうに言えって、(運営側から)言われるからじゃないですか(笑)
正直に言いますと私も里親をやめようと思ったことがあります。
しかし最初は何のつながりもない子どもと「家族という信頼関係」が一度出来上がると、すごく豊かな人生になります。正直おすすめです。
ただやはり、その関係性ができるまでの山が高いのも事実です。その山は一人で登ってはいけません。ひとりで登らないでいいし、みんなで一緒に登るし、あのルートもあったよ、みたいに仲間たちをつないでいきたいというのが私の活動の一つです。
里親の専門家は里親の先輩だったというのは揺るぎません。経験に基づいたアドバイスをどんどん伝えて、私が苦しんだことを次の里親が苦しまないで済むように寄り添っていけたらと思います。もし研修で苦しんでいる方がいたら、ぜひ私たちに連絡をください。
濱田:
ありがとうございます。またエールをいただきたい方からのメッセージが来ています。
Q:体験発表会で自分もやれるかなと思ったものの、里親研修期間の長さと自分の子どもも立派に育てていないのにという思いで里親に登録する手前で諦めてしまいました。家族にも賛同してもらえなかったですし。
齋藤:
これは里親のリアルみたいなものが伝わっていないですから、ご家族もどこに賛同していいかわからないのだと思います。研修もハードルを高くしていることが断念してしまうのが原因なのかなと思います。
しかし一番里親に必要なのは、もちろん知識なども必要ですが、お子さんの味方になるということ、それだけなんです。
里親になってからも同じように悩んでいる人もいるし、養子縁組になっても悩んでいる人もいます。だから仲間がいるので、ぜひ困ったときは私たちに連絡してください。
濱田:
「我々もいるよ!」という力強いメッセージありがとうございます。時間が迫っておりますので、最後に齋藤さんと岡田さんから一言ずつお願いいたします。
齋藤:
今日は長い時間お付き合いいただきありがとうございました。
自分自身もダメな親から少しずつ子どもと一緒に成長して、ようやく里親になってよかったなと10年目に感じています。里親に一番必要な力は何かなと考えると、人に助けてもらうことを前向きに捉えてマネジメントすることだと思います。何十年も里親をやっている先輩方はあらゆる支援を活用するという人ばかりです。こうあらねばならないという、あるべき姿を越えていく。そのためには人の力を借りるのは重要かと思います。
先ほどは里親になりたかったという方もいましたし、興味を持っている人もいると思います。私のように朝起きれなくて朝食の作れない里親もいます。大丈夫です。ぜひ挑戦してみてください。そして悩んだら是非繋がってください。皆さん一緒に悩んだり、考えたりしています。
濱田:
ありがとうございます。岡田さんお願いします。
岡田:
私は8月のイベントの中で齋藤さんと出会いまして、「子どもの権利、子どもの声をよく聞く、子どもの声から始める」という言葉がずっと心に響いていました。社会的養育や虐待予防、児童福祉の大半は大人の判断で子どものためにやっていることが多いと感じます。そのあたりはじっくり子どもの権利を見直さなくてはいけないなと思っています。
また、バディチームの活動はいろんな意味で人の手が足りないですし、全国的に数も量も足りないので増やしていきたいと思っています。今日聞いていただいた皆様にもご協力をお願いしたいと思いますし、広めていく取り組みを続けていきたいと思います。ありがとうございました。
濱田:
今日は里親を支えるというテーマでお話しさせていただきました。齋藤さんからは「仲間がいるよ」「こっちおいで」というお話も印象的でした。山田さんの発表からは、家庭養育推進の流れの中で、ともすれば槍玉にあげられがちな印象のある施設においても、実親さんも含めた委託前から、委託後まで丁寧な支援に当たって、子どもや親御さんと向き合っているというお話しでした。そして私たちバディチームも里親さんの家庭を訪問して支えていくという形で、みんなで里親さんを支えていく、と。
そしてそれぞれの場面で活躍している人は、高尚な人がやっているわけではなく、「普通」の人が活躍して子どもを育てる環境を作り上げています。
今日ご参加いただいた方の中でも皆様の立場ごとにできることがあると思います。みんなで子育てするという社会の形を今後も探っていきたいと思います。
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