【今日このごろのこと】vol.10 みんな自分ごと
コラム 2025.04.18
【イベントレポート】官・民・地域住民の協働による家庭訪問型支援の多様性と可能性~制度の上でも、制度の狭間でも、子どもと親を支えるために~
2025年3月8日、オンラインイベント「官・民・地域住民の協働による家庭訪問型支援の多様性と可能性~制度の上でも、制度の狭間でも、子どもと親を支えるために~」を開催しました。
2024年度から新制度「子育て世帯訪問支援事業」が施行されるなど国でも重点施策となっている<訪問型>の支援。効果的に実施するには官・民・地域住民の協働が重要ですが、その実践の内実は多様です。
虐待の低リスク層から高リスク層まで、妊産婦から18歳の子どもまで、なぜ協働が必要か、どんな協働のしかた(≒制度の活用のしかた)がありうるか、情報交換を行いました。
全国から官民の支援従事者、約100名が参加した当日のもようをレポートとしてお届けします。
※ここにご紹介するのはイベントのほんの一部です。ぜひアーカイブ動画で全編もご覧ください!
■出演
川松亮:明星大学人文学部福祉実践学科 教授/認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク 理事長
森田圭子:NPO法人ホームスタート・ジャパン 代表理事
寺出壽美子:NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会 理事長
岡田妙子:NPO法人バディチーム 理事長
【基調講演】線引きではなく、一緒に考え、一緒に動く「寄せ鍋型支援」を
川松亮(明星大学人文学部福祉実践学科 教授)
私は、もともとは東京都の福祉職で、児童相談所で長く児童福祉司をしていました。
どこのご家庭もいろいろな困りごとを抱えておられて、ご家庭だけで何とかしようとしても難しくなってしまっている状況を感じます。
いろいろと困りごとを抱えながら苦労されてきているのですが、それをご家族だけでは解決できない状況になっているし、ご家庭でしっかり養育してくださいと言われても、なかなかそれがうまくいかない状況になっているのです。
さらに困難に加えて、身近なサポートがないということがよく見られます。
おじいちゃん・おばあちゃんや親族の方、お友達など、こういうインフォーマルサポートをお持ちでないと、余計に困難が深まってしまうと思います。
そうすると社会や地域のフォーマルなサービスを使うことを発想すると思うのですが、これが足りているかということが次の問題だと思います。
とにかく、足りない、隙間があるところを埋める、新しい支援をつくり出していくソーシャルアクションが求められていると思います。
それから、一定の公的サービスはあるけれども、そういう資源があることをご存じなかったり、あるいは、かつて行政職員に言われた一言に深く傷付いておられて、行政に対して敷居の高い方も多いと思います。
そういうご家庭でもつながれる可能性がある場は、やはり民間団体の場だと思います。
例えば、子ども食堂なら立ち寄るご家族がいらっしゃる。また、子ども食堂にも来られない方たちがいるのですが、行政職員ではなく民間の方が行くと玄関を開けてくださる方もおられます。
やはり行政と民間が一緒に取り組んでいくことが必要ではないかという気がします。
1つの機関だけでは絶対にできなくて、それぞれ得意な領域を持っている人が地域におられるので、その人たちがつながる・つなげる・つながり合うということが大事かと思っております。
支援は連携協働でと言うのですが、これがなかなか難しいとは思っています。ここまでがどこそこの仕事で、ここからはどこそこの仕事、というふうに線を引いてしまっているように思います。そうすると、線が開いていって谷間になっていって、谷間に落ちてしまうのです。
そこで申し上げているのが「寄せ鍋型支援」ということです。
線を引くのではなく、一歩ずつ踏み込み合う、のりしろを作って重ね合うということが大事なのではないかと考えます。
一緒に考える、一緒に動く、一緒に会ってお話をする、一緒にご家庭に行く、そういったことの積み重ねが大事なのかなと思っています。
【取組事例】フレンドシップで孤立を防止し、問題の複雑化を予防する
森田圭子(NPO法人ホームスタート・ジャパン 代表理事)
ホームスタートは家庭訪問型の子育て支援で、家事を代行するなどではなく、いろいろやったりもするけれども、大事にしているのはフレンドシップ、一緒にいることだということを掲げています。
訪問するのは、30時間の研修を受けた地域のボランティアです。また実際に訪問するホームビジターを支える、オーガナイザーと呼ばれる人たちがいます。これは訪問のケースマネジメントをしたり、ボランティアを募集して養成し、その人たちを訪問のときなどにフォローアップしたりします。
現在は全国の32都道府県、約120ヶ所で地域団体さんが実施していまして、約3600 人のボランティアさんがいらっしゃいます。
補助事業では、利用者支援事業や、地域子育て支援拠点事業の加算などが活用されていますが、いくつかの市町村では今年度から子育て世帯訪問支援事業でも取り組んでおられます。
私の地元の埼玉県和光市では、保健師さんであるとか、子育て世代包括支援センターのケアマネージャーさんと非常にうまく連携がとれています。
どちらにもコーディネーターがいるということが、うまくいく秘訣だと現場では感じています。
【取組事例】小中学生・高校生にも、継続的な訪問支援で心の回復を
寺出壽美子(NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会 理事長)
2023 年度に「子育て世帯訪問支援事業の今後の制度設計・改善のための調査研究」を行いました。結果として、養育支援訪問事業(育児・家事支援)を実施している自治体においては、特定妊婦や乳児・産婦への支援は手厚い一方で、小学生・中学生への訪問はほんのわずかでした。
結果としては母親支援中心の事業になっているということです。
例えば訪問支援員が週に1回、子どもと遊んだり、片付けたり、食事を作ったりといったことを1年、2年と継続していると、不安定だった子どもが少しずつ安定していきます。これも調査でわかったことです。
精神不調の母親というのは幼児期に心理的虐待を受けているケースが多く、これに対応するには保健師を中心とした母親への心の回復プログラムを別にする必要があると思っています。
小学生・中学生・高校生の心の回復のためには、こども家庭センターなどでお母さんへの指導をするだけではなく、その子どもに対して数回は必ず面接をし、関係性を深めながら、訪問支援事業につなげていただきたいと思っています。
【取組事例】制度事業でも、制度の狭間でも
岡田妙子(NPO法人バディチーム 理事長)
子育て世帯訪問支援事業を都内12区から受託しています。より心配な家庭では、保護者自身が「普通」の家庭生活を経験しないまま子育てをしているという状況が多くあります。
物があふれて床が見えないような不衛生な環境も多く、そんな中で乳幼児が生活していることもありますが、学齢期の子どもたちも支援の対象になっており、一緒に過ごしたり一緒に家事をしたり、ということもあります。
現場支援者は、性別・年齢・経験・資格の有無を問わず、志のある方々が集まってきてくれています。
江戸川区と世田谷区では、区の独自事業として訪問型の食事づくりの支援を行っています。
現場支援者は自治体が募集した地域の支援員さんで、わが町のためにということで人が集まっています。高齢の方も多くいますが、コーディネーターが伴走することで、最前線で活躍していただいています。
事業の要となるコーディネーターは、家庭、現場支援者、行政の間の「架け橋」としてあらゆる調整を行っていますが、このコーディネーターにかかる費用が考慮されていない自治体が多く、運営の厳しさもあります。
3年ほど前から、制度につながっていない家庭に対して民間団体と連携して行う訪問型支援をモデル的にスタートしました。
支援に入るだけではなく、行政につながったり、連携したフードバンクさんが地域の要対協(要保護児童対策地域協議会)に加入することができたり、という事例もありました。
来年度から、中間支援事業を始めることになりました。訪問型支援をこれから始められないかと考えている団体さんや自治体さんはぜひお気軽にお問い合わせをいただければと思っています。
質疑応答
【川松】
児童相談所でも子どもの心理的な支援が十分にできていないことを感じていました。子どもとのつながりや、子どもの声を聴くという意味ではどんな工夫をされていますか?
【寺出】
訪問支援員がその子どもにとってかけがえのない特定の誰かという立場で気持ちを受けとめることが一番大事で、そのことを最初の研修でも力を入れていますし、継続研修においても事例をもとに繰り返し話し合っています。
【川松】
行政がケースをつなげてくるときに、支援に入りにくかったりすることもあるのではないかと思うのですが、行政との関わりの上での工夫や課題はありますか?
【岡田】
まず行政と一言で言っても、地域格差がすごくあります。
年度ごとの契約の前に内部で要望を集めてそれを出したり、よりいい形でやっていただいている自治体さんの例を挙げたりしながら、対話を重ねているというところがあるかなと思います。
【参加者】
地域で「寄せ鍋型」の(協働の)チームをつくるうえで、ファシリテーターの存在が重要だと思っていますが、ファシリテーション人材の確保や育成について、どのように取り組まれていますか?
【森田】
オーガナイザー(コーディネーター)養成講座では地域の各支援機関との連携についての実践的な内容があります。養成講座の後もエリア別に研修をしている地域もあり、特効薬はないですけれども、続けていくということかなと思います。
【参加者】
地域活動の担い手となっていた層(専業主婦など)がかなり薄くなっていること、また一般の労働市場でもなかなか人が集まらない現状で、人材確保や人材の定着のために工夫していることがあれば教えていただきたいです。
【岡田】
江戸川区や世田谷区の事例でご紹介したように、もうちょっと自治体が募集に協力してもらうという点が大事だったりします。あとはファミサポ(ファミリー・サポート・センター事業)の研修の場でご説明させてもらったすると、思いのある方がつながってくださることがあります。
一緒に悩みながら、家庭の応援団を増やしていく
【岡田】
生きづらさを抱えた人たちと出会う中で、なんとかもっと早い子どもの時期に対応ができれば、という思いが活動を始めたきっかけになっています。
平和というものがこれだけ難しくなってしまった社会で、まずは小さな単位で、みんなで一緒に取り組みながら、一緒に悩みながら、家庭の応援団を増やしていく。そのことが、平和な家庭を少しでも増やしていくことにつながると、このごろは考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました!
官・民・地域住民の協働による家庭訪問型支援は、全国で模索が続いています。バディチームでは今後もこうした学び合いの場づくりを行い、関係機関のみなさんと手を携えて、行政に対しての働きかけも行っていきます。
※ここでご紹介したのはイベントのほんの一部です。ぜひアーカイブ動画で全編もご覧ください!
このイベントは日本財団より助成を受け、2024年度「訪問型養育支援強化事業」の一環として開催されました。