特定非営利活動法人バディチーム
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インタビュー 2024.10.25

【他団体・多職種による情報共有・事例検討会】vol.10 認定NPO法人フードバンク渋谷

2024年8月22日(木)、日本財団の助成事業『訪問型養育支援強化事業』の一つである『他団体・多職種による情報共有・事例検討会』の第10弾を開催しました。

 

今回お話を伺ったのは東京都渋谷区を拠点に活動をされている「認定NPO法人フードバンク渋谷」です。事務局長の久保田寿江(くぼた ひさえ)さんにフードバンクの取り組みとそこから見えてくる親子の現状、渋谷区という地域性からの課題について、詳しくお話をお聞きしました。

 

下段:久保田寿江さん

フードパントリーと宅食で地域の世帯を支える

―最初に、フードバンク渋谷について教えてください。

 

昨今、「フードバンク」という言葉はかなり公用語のように使われてきていますが、個人や企業から集めた食品を必要な人に渡すというようなシンプルな活動をしています。

フードバンクは全国に100団体ぐらいあり、団体によってさまざまなカラーがあります。食品ロスの観点から捨てられてしまう食品を「もったいないね」といって有効活用をしている団体と、福祉寄りの団体があります。

フードバンク渋谷は困っている方々に食品を提供したいということで、「食品ロス対策」と「福祉」の両面から活動を行っていますが、どちらかというと福祉寄りの団体です。

 

―食品はどのように集めているのですか?

 

主に3つの方法があります。

1つ目は渋谷区民からの提供です。渋谷区のリサイクル推進課で「フードドライブ」という取り組みをしており、区民の方がいつでも持ってこられるシステムになっています。区内に8カ所の拠点があり、年間2トンぐらいの食品が集められています。

 

2つ目は企業からの備蓄品や善意の寄付です。どの企業でも災害備蓄品は5年おきぐらいで入れ替わります。どちらかというと企業からの「引き取ってもらえませんか?」という問い合わせの中で、アルファ米やビスコの缶、乾パンなどの災害備蓄品をいただいています。善意の寄付というのは、会社がもらったお中元やお歳暮、株主優待ギフトを提供していただいたり、クッキーの卸しなど、渋谷に所在するさまざまな会社の余剰在庫をいただいています。

 

3つ目が国内でも大きな規模でフードバンク活動を行っている団体「セカンドハーベスト・ジャパン」からの提供です。

 

―集まった食品はどのように配布しているのですか?

 

2通りの配布方法がありまして、1つは「フードパントリー」という食品配布会です。今、5団体と協力、連携して月に7回から9回ほど開催しています。

 

5団体の1つ目は「景丘の家」という子育て支援施設を委託運営しているマザーディクショナリーという会社です。第1、第3、第4日曜日に大体30世帯の受け渡しをしてくださっています。

 

2つ目が児童養護施設の「若草寮」です。幡ヶ谷の施設で月に2回開催し、10世帯の受け渡しをしてくださっています。

 

3つ目は渋谷区には、「こどもテーブル」という、一般的にはこども食堂と呼ばれる社会福祉協議会の取り組みがありまして、その中の一団体で「やずぴょんち」という団体がフードパントリーとこどもテーブルを同時開催し、5世帯に受け渡しをしてくれています。

 

4つ目は笹塚にある「一般社団法人TEN-SHIPアソシエーション」という団体が青山学院大学の学生と協力して月に1回、10世帯の受け渡しをしてくれています。

 

5つ目が私たちフードバンク渋谷の直営で月に1〜2回、「地域交流センター大向」という区の施設で開催しています。

全部合わせて毎月60世帯から70世帯ぐらい、一世帯に対しては大体1箱10キロぐらいの食品をお渡ししています。

 

もう一つの配布方法は「お米で応援プロジェクト」です。一般的には「こども宅食」と言われていますが、経済的に厳しいご家庭に定期的に食品を届け、食品のお届けをきっかけにつながりをつくり、見守りながら、食品以外の様々な支援にもつなぐ取り組みです。

もともとは認定NPO法人フローレンスが文京区で始めたやり方をちょっとまねさせていただき、渋谷区でも始めました。年によって違いがありますが、大体400世帯から500世帯、年間でお米5キロとプラスアルファの食品を配送でお届けしています。

 

―利用をしたい人はどのような経路から申込みをされるのでしょうか?

 

渋谷区の子ども青少年課がひとり親さんに向けて配布したチラシや生活支援相談窓口からの問い合わせ、地域包括センターや保健師さんからの問い合わせもあります。ホームページからは区外の方からも問い合わせがあります。

 

活動を始めて8年目になりますが、フードバンク渋谷自体が渋谷区内で徐々に知られるようになってきたため、ケアマネージャーさんからの問い合わせもありますね。広尾に都営住宅があるのですが、そこにお住まいで、直接取りに来られないお年寄りの代わりにケアマネージャーさんが取りに来て届けているという事例もあります。

 

―利用者にはどのような方がいらっしゃるのですか?

 

最初の4年間は生活支援相談窓口から紹介のあった生活困窮者の方々です。単身男性の利用も多く、体調を壊して働けなくなってしまったという50代ぐらいの非正規社員の方や、障害をお持ちの方、高齢の方が来ることが多かったです。

 

2020年のコロナ禍をきっかけにひとり親さんの利用が増えました。給食がなくなってしまった時にひとり親さんから区に「大変だ」という声が寄せられ、福祉部からフードバンク渋谷に「もう少しキャパを広げられないか」という問い合わせがあったので、食品の取り扱い量を増やしていきました。

利用世帯の割合でいえば、子ども青少年課から配布いただいたチラシをきっかけに申し込みされたひとり親さんが一番多いですね。

フードパントリーを通して感じた課題。地域の多様なニーズに応える

―そういった流れでひとり親さんにまで広がっていったのですね。

 

2020年頃にはフードパントリーを渋谷区宇田川町の区役所近くの1カ所だけでやっていました。ひとり親さんが夏休みの暑い中、お子さんを連れて区内の遠方から3、40分かけて歩いてきてくれるのですが、食品を渡して10分ぐらいで帰っていくのです。せっかく来てくれたので、ほっと一息ついてゆっくりしていってもらいたい気持ちもあり「親子カフェ」を始めました。

 

親子カフェに来てくれたお子さんの中で、来年小学生になる5歳の子がまだおむつが取れていないなど、目視で気になったご世帯には少し深い関わりをするようにしています。

こうした気になったご世帯を渋谷区の生活福祉部などに共有すると、区からは「この方は相談履歴がありますね」というような回答もありますので、そういった形で情報共有をしています。

 

 資料提供:フードバンク渋谷

 

―フードパントリーだけではなく、親子カフェのような居場所も必要と感じられたのですね。その他にも学習支援、なんでも相談など地域の多様なニーズに合わせた活動をされているとお聞きしています。

 

 

資料提供:フードバンク渋谷

多くの出会いから見えてくる心配な親子とは

―続いては、久保田さんが日々の活動で出会うさまざまな人たちとの中で、特に心配に感じた親子や家庭の状況について教えていただけますか?

 

最近印象的だったのは、お子さんが障害を抱えている場合、子どもの頃に支援を受けられていないと18歳以上のある程度年齢がいってしまうと支援のはざまになってしまうケースがあることがわかりました。大きくなってからですと障害者手帳の申請が通らないこともあります。

 

小さい時に障害がわかって保健師さんとのやり取りがあれば支援が継続していきますが、子どもの頃にグレーゾーンだった場合、中学校や高校を卒業した後に何も支援がなかったりします。そのお子さんは現在19歳や20歳になっていますがやはり社会への適合が難しく、地域コーディネーターさんと連携して障害者手帳を取れるようサポートしています。

 

学力がついていけてしまうと、発達障害やコミュニケーションの問題は後から浮上するのかもしれません。学校を卒業してから顕著になる例もあるようです。

 

―確かにそうですね。グレーゾーンにいるお子さんは支援が必要かどうか迷ってしまい、結局そのままにしてしまうことがあると思います。でも、そのままにしておくと大きくなってから「もっと早く支援につながっていれば、さまざまなケアができたのに」と感じることは多いのでしょうね。

 

あとは、ひとり親さんという大きなくくりの中でも、本当にいろいろな方がいらっしゃいます。児童扶養手当を受給中のひとり親さんという条件で利用してもらっていますが、近くにご両親が住んでいる場合や、そもそも持ち家のご世帯と全然頼る人がいなくて全部ひとりでやっているご世帯では、具体的に話していくとかなりの幅があるという印象です。

 

また、フードパントリーを利用される家庭とお米で応援プロジェクトを利用される家庭との違いも感じます。

お米で応援プロジェクトを利用しているご世帯を対象に、「親子カフェ」や「プチ夏祭り」のようなイベントを行った際、10世帯中、4~5世帯のお子さんが障害を抱えていることがわかりました。ですので、フードパントリー自体に来られない家庭もあります。

 

あるお母さんはフリーランスで動画編集をしているのですが、お子さんに障害があるためコミュニケーションがうまくとれず、お母さんが仕事をしながらお子さんにきつく当たってしまうというケースもありました。

 

―宅配というこちらから出向いていくことで、フードパントリーに来られる方とはまた違う状況が見えてきたということですね。さらに私たちの団体を調べてくださったように、家庭に入る支援の必要性を思っていただいたのでしょうか。

 

そうですね。フードパントリーを利用されるご世帯は、自分から「助けて」とまだ言いやすい方たちではないかと思います。今はお米で応援プロジェクトのご世帯こそ、こちらから少し様子を伺っていくようなアプローチが必要だと感じています。

渋谷区という地域性からの課題

―他に気になる点はいかがでしょうか?

 

「渋谷区」という地域性からくる課題もあると思っています。

渋谷区は東京23区の中でも世帯収入の平均が3番目ぐらいに高い区なので、一般的な相対的貧困よりラインが高いです。

例えば、今まで13万円ぐらいの家賃を払っていたのが、急に離婚して旦那さんに出ていかれたら、その家賃をひとりでどうにかしなければなりません。1歳の小さな子どもを抱えて仕事もままならず、数カ月で急激に貯金が減っていくようなケースもありました。

でも、収入自体は仮に月に20万円ぐらいありますと、自分が支援の対象に該当するとは思わず、貧困に気付かないことがあります。

 

また、離婚されている方の中には、こういう状況になったのは自分が悪いと思う方もいてにっちもさっちもいかなくなってしまうケースがあります。

ですので、私たちのような外部から「それは大変な状況ですね」と言ってあげます。言ってあげないと気付かないことがあるのです。

 

―もともと生活水準が高かったこともあって、なんとか頑張ってしまうのですね。そういった方は貧困に気付いていないこともあり、やはり申し訳なさそうな感じで食品を受け取るのですか?

 

はい。基本的に「申し訳ありません」という感じです。もっと困っている人がいるのではないかと考えて、「私なんかが利用してもいいんですか?」と言う方が多いですね。

 

―そのような方にはどんなお声がけやお話をされるのですか?

 

「大変ですよね」という感じでお声がけします。大変なことを肯定するというと変ですが、その大変さを自覚してもらうところからスタートすると思っています。

 

―そう言ってもらうことで安心できる部分はありますよね。第三者から言ってもらうのがとても重要だと思います。

逆に、経済的困窮はなく食費などには困ってはおらず、むしろ比較的生活水準が高いけれども、他に心配があるようなご家庭も見え隠れしているのでしょうか。

 

そうですね。アンケートでは渋谷区で困っていると感じるラインが年収300万円以下の人たちが多いようですが、実際に支援を利用している方の中には300万円以上の方もいらっしゃいます。

 

離婚して1年未満ですぐに引っ越しができない、または子どもの学校や障害を抱えたお子さんの支援のために現在の場所を離れることが難しいなど、次の生活ステージに移りたいけれど、それを整える余裕がない方もいらっしゃいました。

 

保育園の問題もありますね。例えば、渋谷区に住んでいて知人がいる千葉県に引っ越そうと思ったけれど、仕事を辞めないと引っ越し先の保育園に申し込めないため結局諦めた、という方もいました。こうした保育園申請に関する壁もあるようです。

 

―いろいろな節目で身動きがとれなくなってしまう状況があるのですね。特にそうした状況の場合は孤立しがちだと思いますので、フードバンクや親子カフェで誰かと会い、相談ができることは大きいですね

 

実際に数か月間関わった方の中には実家がある東北に引っ越しされた方もいらっしゃいます。別にこちらから「実家に帰ったらどうですか?」というお声がけはしていないのですが、お話をされる中で、何カ月かして「実家に帰ると決めました」と言って引っ越していかれました。気持ちや行動を整理する期間として一緒に伴走できたのかなと思います。

また、相談していく中で母子生活支援施設につながったり、非正規社員から正社員として転職された方もいますね。

 

―もともとある程度の力のある方だったら、大変だなと思う時期に適切なサポートがあることで自ら動けるようになるのでしょうね。その大変な時期を見過ごさず、支援することが大事だと思いました。

あらためて、フードバンク渋谷は地域の中でなくてはならない存在だと思いますし、こうした存在が各地域にあれば全然違うだろうなと感じます。

 

そうですね。食品を渡すことはみなさん喜んでくださいますし、フードバンクが入り口となって、さまざまな支援にスムーズにつながるような仕組みが作れたらいいなと思っています。

「もっと早くわかっていれば」を減らし、自分で道を選べる選択肢のある社会を作りたい

―最後に、久保田さんの今後の展望や活動への思い、こんな社会になったらいいな、ということがあればお聞かせください。

 

フードバンク渋谷は地域にこだわっているのですが、まずは身近な地域でリスクのあるご家庭と接点を持てる状態を作りたいと思っています。ベーシックインカムという考え方もありますが、フードバンクの食品が地域の中でもっと多く流通すれば、もう少し利用のハードルを下げることができると感じています。利用に関して何かしらのガイドラインは作りますが、渋谷区でいわゆる低所得世帯と言われるような世帯が、利用したい時に利用できる環境を作りたいです。

 

今、渋谷区でもフードパントリーの団体が増えてきていますが、近所にそうした受け取り場所があると地域の様子を把握できるようになります。例えば、私ひとりでも100人ぐらいの様子を把握できますが、100人の様子を把握している人が20人いれば、2000世帯ほどを把握することができます。昔は子供会や町内会の会長さんが地域で機能していたと思いますが、同様に地域で機能する人や団体が20~30団体ぐらい存在すると良いなと思います。

 

こどもテーブルや民生委員さんとも連携し、気になる世帯をいつも把握することができて、「あそこの世帯は今どうかなあ?」というやりとりや情報共有ができたらいいですね。今でも「もっと早く分かっていれば」という話を聞くことが多いので、そうした連携があれば早めに対処できるようになります。

 

また、高齢者を支援している団体さんともつながりがありますが、孤独死をされる世帯のお話を聞くと、もっと早く状況を知って何かしら関わりを持てていたらと感じます。

 

私自身が活動をする上でとても影響を受けた出来事だったので詳細をお伝えしたいと思います。

フードバンク渋谷でも孤独死をされた方がおひとりいます。ただ、その方は本当に誰も知らない中で亡くなったというわけではありません。誰か知っている人がいるのと、誰にも知られずに亡くなるのとは少し違うと思います。

 

50代の男性でしたが、昔、路上生活をされていて、「自分は自殺したんだけど死ねなかった」と話してくれました。「俺は妾の子だから家族で食事なんてしたこともない」とも言っていました。頼れる人がなく、身元保証人が必要とのことでフードバンク渋谷がその方の緊急連絡先となっていたため、警察から「部屋で亡くなった」と連絡がきました。

フードパントリーの会場がキリスト教会だったので、その方は教会の方と顔見知りになり、日曜礼拝にも出入りするようになりました。そこで食事も一緒にするようになりましたが、タバコの臭いがきつかったので、狭い空間に子どもがいることもあり、「ここにいる時はこの上着を着てほしい」と言ったら、怒って来なくなってしまいました。

 

ただ、自分の意志で孤独を選んで孤独死になったというのなら選択があったと言えます。でも、本当に誰も知らないまま亡くなってしまった場合は、その選択肢すらなかったことになります。

 

社会的に選択肢がないことで、貧困の連鎖や非行に走ってしまう子どもがいます。その子どもたちが自分で選んでその道に進むのであればまだ良いのですが、支援や奨学金、勉強の道という他の選択肢がないのは非常にかわいそうですし、社会がそうしてしまっているように感じます。

だから、さまざまな選択肢が提供できるような社会になったらいいなと思っています。

 

―地域に根ざした視点で、さまざまな団体と連携しながら取り組んでいらっしゃる活動はバディチームが目指す「みんなで子育てする社会」の実践でもあり、大変共感いたしました。

久保田さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。ますますのご活躍を応援しております。

 

認定NPO法人フードバンク渋谷

                

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