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インタビュー 2023.04.10

【他団体・多職種による情報共有・事例検討会】vol.6 社会福祉法人二葉保育園 二葉乳児院(二葉・子どもと里親サポートステーション)

2023年2月27日(月)、日本財団の助成事業『訪問型養育支援強化事業』の一つである『他団体・多職種による情報共有・事例検討会』の第六弾を開催しました。

 

今回は「フォスタリング機関」についてです。

 

フォスタリング機関(里親養育包括支援機関)とは、里親の広報・リクルート及びアセスメント、里親に対する研修、子どもと里親家庭のマッチング、里親養育への支援、里親委託措置解除後における支援に至るまでの一連の過程において、子どもにとって質の高い里親養育がなされるために行われる様々な支援を行う機関です。

バディチームの里親家庭支援でも連携を取りながら支援を行っています。

 

今回は、二葉乳児院(社会福祉法人二葉保育園)の副施設長であり、二葉・子どもと里親サポートステーション統括責任者の長田淳子(ちょうだ じゅんこ)さんにお話をうかがいました。

長田さんご自身もお二人の実子(中学生・小学生)の子育てをしながら幼児の里子を育てる養育家庭(里親)さんであり、東京の、あるいは日本の里親家庭支援のトップランナー的存在です。

 

下段:「二葉・子どもと里親サポートステーション」統括責任者 長田淳子さん

 

「フォスタリング機関」とは

―まずは「フォスタリング機関」の概要について教えてください。

 

もともと国が平成20年度から「里親支援機関事業」ということでスタートしています。児童相談所の業務多忙の中で、「(里親支援について)専門性のある民間の力を借りましょう。」というところでスタートした後、平成24年度に、「里親支援専門相談員」さんが施設に配置されました。現在も東京都内の全ての乳児院さんと35の児童養護施設さんに里親支援専門相談員さんが配置されていて、その方々も含めて「チーム養育体制」となっています。

フォスタリング機関については、「新しい社会的養育ビジョン」が出た後に、「包括的な支援を民間さんにお願いしましょう。」というところで体制強化されたところがスタートになっているかなと思います。

東京都でいうと、令和2年度から特別区への児童相談所の設置が始まりまして、そこに「フォスタリング機関」を設置するというところがスタートになっています。

 

現在、都内に17の児童相談所がありますけれども、私たちはそのうちの9つの児童相談所で里親支援の担当をしています。9つのうち、3つが「里親支援機関事業」という一部受託、6つが「フォスタリング機関」という包括的な支援を担当しています。

 

「フォスタリング機関」といっても、包括的な支援を受託している団体さんはまだ全国的にはそれほど多くないのですが、リクルートからインテーク(初回面接)、マッチングから相談・援助、そして自立後支援まで、連続した、切れ目のない支援をしましょうというのが、「フォスタリング機関」の考え方かなと思います。

 

―「里親支援機関」として一部受託していた段階から、「フォスタリング機関」として包括的な支援を担当するようになったことで、よかったことなどはありますか?

 

東京都はもともと包括的な支援に近い事業内容を受託していたので、すごく変わったという印象はないのですけれども、やはり責任を持って全部「同じ目線」で見ることができるということでしょうか。

例えば、研修についても受託ができると、お子さんが委託される前に伝えたいことも伝えられるようになりますし、同じ里親さんをずっと見守ることができます。見守っておけば地域の子育て支援サービスなどにつなげることもできますし、自治体によってはショートステイの協力家庭さん(*)として活躍いただくことなどにつなげることもできます。

逆に私たちが地域のショートステイ協力家庭さんの養成講座を担当して、その受講生の方々にゆくゆくは里親さんになってもらい、一時保護の委託などを引き受けてもらうことができるような取り組みもしています。

児童相談所ごとという担当エリアができたことによって、地域に近い形で、民間の方と連携しながらできることが増えたかなと思います。

 

*ショートステイの協力家庭さん

保護者がさまざまな事情で昼夜を通して子どもを養育することが難しいときに、一時的に子どもを自宅で預かる支援者

 

支援制度の変化と混乱

―ありがとうございます。里親支援についてはすごい勢いで制度が変化してきていると思いますが、長田さんはどのように捉えられていますか?

 

平成20年度からこの10年、15年ぐらいの中で大きく変化してきていますので、サービスが充実してきたというところもあるとは思いますけれども、専門職が増えたことで、役割分担の狭間に業務が落ちてしまわないようにするというところは重々気をつけています。

また里親さん側からすれば、担当する職員の職種が増えていて、役割内容もスライドして行ったり来たりしているので、サービスや支援というところでわかりにくさが強いかなという印象はあります。

里親支援機関事業からどんどん業務内容が変遷されていきますので、里親さんも何の事業があって何の事業がなくなるのかというところでは、たぶんすごく混乱されているかと思います。

その都度ご説明はしますけれども、担当職種も増えていますし、フォスタリング機関に移行するというタイミングでも、児童相談所が一義的窓口ではなくなることに対する不安や、里親支援専門相談員さんとの役割分担での揺れみたいなところももちろんあるので、そのフォローをしていく必要があります。

 

今度また、児童福祉法改正で令和6年度に、「フォスタリング機関」という名前ではなく「里親支援センター」という名前になるということも混乱するとは思いますが、その中で、基本的な業務内容がどこまであるのか、配置人数はどれくらいなのか、事業費としてはどれくらいの規模になるのかなどをについて、まだまだ明らかになっていない現状です。

 

ー「フォスタリング機関」ではなくなってしまうのですね。

 

二種事業(第二種社会福祉事業)として受託するとなれば「里親支援センター」になります。里親支援を担当する機関について「フォスタリング機関」という呼び方はたぶん残るかもしれないのですけれども、「里親支援機関」とは呼ばなくなるでしょうし、名称の整理みたいなところは出てくるのかなと思います。今でも混乱しますものね。

 

-そうですね。少しずつ「フォスタリング」という名前も知られてきたところではあったかと思いますが。

 

そうなんです。「それもなくなるのか」と思って、私は大混乱です。

厳密に言うと名称変更はこの10年少しで4回ぐらいになります。事業名や職名も変更になってきていますので、やはりすごく混乱されるだろうなと思います。

 

二葉の活動

-続いては二葉乳児院さんの活動内容を教えていただけますか?

 

法人内の児童養護施設である二葉学園が多摩児童相談所のフォスタリング機関を受託しているので、法人全体としては10ヶ所の児童相談所管内を担当しています。荒川区児童相談所については、地元の児童養護施設・クリスマス・フォレストさん(社会福祉法人友興会)がフォスタリング業務を開始されますので、そちらに令和5年度より移行する予定になっています。

 

職員体制では、乳児院本体の里親支援専任スタッフが3名とサポートステーションのフォスタリングチームとして41名のスタッフがいます。

事業としては広報、リクルートから、自立支援、措置解除後の子どもの支援と、養子縁組成立後家庭の支援まで包括的に受託をしております。

 

※資料提供:社会福祉法人二葉保育園(二葉・子どもと里親サポートステーション)

 

-未委託の里親さんむけの研修や実習などのフォローもやってらっしゃるのでしょうか?

 

そうですね。未委託家庭さんの研修については、地域の子ども家庭支援センターなどに見学に行かせてもらったり、保育園さんに実習で入らせてもらったり、施設さんに養育体験で入らせてもらったりもします。フォローアップ研修は都内全域の里親さんを対象とした年間15講座の連続講座ですけれども、そのときにも未委託さんむけのものを入れさせてもらっています。

 

-二葉乳児院さんの相互交流では、養子縁組された里親さんも、定期的な交流会などにいらっしゃる方が多いのでしょうか?

 

そうですね。毎月やっているので、どこかには来てもらえると思います。他の団体さんだと年3回以上というフォスタリング業務の仕様ですので、そうするとやはり養子縁組さんも「すごく数が少ないし、機会がない」とおっしゃられているのを耳にすることもあります。

子どものプログラムも継続してやっていて、大きい子だと中高生のプログラムまでをやっています。そこは他の事業所さんがまだ取り組まれていないところかもしれないです。

 

-子どものプログラムというのは、里親家庭にいるお子さんのためのプログラムですか?

 

そうです。養子縁組成立後のご家庭の子どもたちに集まってもらうプログラムを年に数回実施していて、乳幼児版、小学校版、中高生版みたいに分けてやっています。キャンプをして、ライフストーリーワークに一緒に取り組むなどといったことをしています。

 

-交流会、研修、もろもろ含めて常にすごい数が動いているのですね。

 

そうですね。いろいろなことはしているかなと思います。

 

里親制度の隙間

-それでは続いて、今回のテーマでもある「制度の狭間」や「社会的とりこぼし」について、里親さんの領域ではどういうふうに見えていらっしゃいますか?

 

子育て支援のサービスは充実してきていますが、使い勝手といいますか、何を使ったらいいかわからないということがやはり圧倒的に多いと思います。

委託前のカンファレンスで地域の子ども家庭支援センターさんをお呼びしてのカンファレンスをする児童相談所さんも増えてきていますし、特別区など地域に近い児童相談所ですと、やはり自分の地元の情報をたくさん持ってらっしゃるので、そういったご紹介は特別区の児童相談所さんは強いのかなとは思います。都内全域となるとやはりそこがなかなか難しいこともあるかもしれないですね。

 

また、委託になるまでの期間(長期外泊期間)というところはどうしても地域のサービスが受けられないことも多いので、それをどうするかというところは出てくるかなと思います。

 

あとは、発達的にグレーゾーンの子どもたちといいますか、成長発達の中にいる子どもたちが里親家庭に馴染むまでの間、里親さんがその子育てのしにくさみたいなものを感じられるときに、わかってくださる先が、保育園や地域ではなかなか少ないので、その部分の不安を抱えられている里親さんは多くいらっしゃるようには感じます。

あとは、一時保護委託がすごく多いですね。

一時保護所はもうずっとほぼ満員です。長期化するケースも多いので、一時保護委託中は地域のサービスを受けられないという難しさはあるかもしれないです。(通常の委託前の)長期外泊とはまた違い、一時保護委託は一時的なお預かりで、住民票を動かせるわけでもないのでほとんどの地域サービスが使えません。虐待等の保護が理由で、ずっと里親宅にいる子は、学校にも通えずにお預かりすることになるので、そこは里親さんにとってすごく大変だと思います。

 

※資料提供:社会福祉法人二葉保育園(二葉・子どもと里親サポートステーション)

 

登録家庭数に対する委託家庭数の割合は6割少しというのが通常なのですが、実は一時保護委託専門の里親さんもこの登録家庭に含まれるのです。

短期で、子どもを育てあげて、「長期委託は難しいけれども一時保護を受けれるよ」という方々は、この未委託家庭のところにずっと入り続けることになります。

 

-そうした一時保護を担っていただいている家庭は地域サービスが使えない、と。

 

そうです。ですので今だと、例えば1ヶ月間お預かりするのに、「今日と明日はうちがダメ」となったときに、一時保護委託をいったん解除して、別のお宅に二日間だけ一時保護委託をかけて、また解除して戻すみたいなこともあります。

大きい子ですと、児童相談所さんに連れていって、1日見てもらうという場合もあります。

 

-他にも課題があるでしょうか。

 

一つは、民間あっせん団体さんから来ている子どもたちについては、自治体に同居人届けが届けられたときからサポートはできますけれども、育児家事援助やレスパイトなど、そういった(行政に登録された里親むけの)具体的なサービスは使えないということです。

サロンのご案内やイベントのご招待はできますけれども、やはり具体的な里親支援としてのサービスを提供することはできないので、地域の子育て支援サービスの資源をその人たちが頑張って見つけて使っていかないといけないという状況にあります。

基本的に民間あっせん団体さんのケースと児童相談所のケースは事業としては別になっているので、そこの連携は分けてしまっているところがあります。児童福祉司指導として様子を見ることはできますけれども、基本的な支援は団体さん側でやることになるので、団体さんのサポート力の大きさによっては、なかなか難しくなられる方もいらっしゃるかなという印象はありますね。

 

民間の団体さんを介される場合、東京の養子縁組家庭さんでも、他県から子どもたちが来るというケースもあります。全国にあっせん団体さんがあるので、その人たちがすぐに駆けつけることが難しい場合もあるでしょうし、詳細な地域資源を事前に教えてくれるわけでもありません。多くの場合、ご本人の力で開拓できるかできないかみたいなところになるので、やはりあっせん団体さんが難しい場合は、そこにつなぐということはしてあげないと大変さはあるかなと思います。

 

それから、里親さんたちの受託当初のすごく大変な混乱期を理解してくれる支援者さんがどれだけいるかということで、安心感は全然違います。

理解してくださる自治体は多くありますし、ファミリー・サポート・センター(ファミサポ)さんの研修などでも出前講座として私たちがお話をするような自治体も増えているので、理解も増えてはいます。しかし、やはり全てではないので、保育園も含めて、里親さんのお家にいる子どもに対する配慮や声かけみたいなところをあまりご存知ありません

「里親って本当に素晴らしいですね。私にはなれないわ。」みたいなことをずっと言われると、愚痴も言えないではないですか。大変とも言えず、「素晴らしい仕事をしていますね。尊敬します」と言われると、「あー、はあ」となって、弱音も吐きづらいですし、できないとも言えないみたいなところもあるので、やはりその辺の地域の受け入れ一つで里親さんの安心感は全然違うなとは思います。

 

私も養育家庭をしていて、長期で受け入れている子どもが我が家にきて5年目になりました。やはり私がやっていても「それは凄いね。共働きで、長田さんの家がやるの?」と言われることもあります。そう言われると、私も「大変だ、家でゴロゴロしていることもあるけどな」と言ったことがあっても、なかなか言いづらいなと…。

 

バディさんたちみたいにわかってくださってサポートしてくださる声かけと、全然ご存知ない地域の支援を利用したときの声かけとではやはり多少違うこともありますので、そのときの安心感みたいなところは、まだまだ違いが出てくることもあるかなと思います。

 

里親家庭支援のバランス 子ども目線で

-ファミサポも、昔から使えていたわけではありませんでしたよね?

 

一応、使えることにはなっていたのですけれども、里親さんたちも「使っていいのか」というところで気にされる方もいて、やはり児童相談所としても里親さんの家に来たばかりのケースや、ファミサポさんのお家でその人が養育するとなると、子どもの混乱やアタッチメントの観点でどうなのかという課題も出てくるので、その辺はやはり難しさもあるかなとは思います。

 

-親にとっては「そういう支援が使えていい」と思うかもしれないですが、子どもにとってはまた違うのですね。

 

そうですね。サービスは増えてきたなと思います。トワイライトステイやショートステイなど、たくさんあるのですけれども、「子どもにとってどうなのか」という目線で見たときに、全部使うことが良いかと言うと少し悩ましいところもあります。

 

特に委託後間もなくそういう資源をたくさん使い過ぎると、やはり関係性がすごく「間延び」すると言いますか、すごく長い間、「試し行動」などの難しさが継続することもあるので、やはりその辺をご説明したうえで、どういう資源を使うか理解してもらわないと、子どもも不安定になったり揺れたりすることもあります。

揺れると子育てに自信がなくなるので、それによってもっとサービスを使い始めたり、保育園も夜8時ぐらいまで預けたりとなると、それが「子ども目線で大丈夫なのか」と考えたときに、なかなかそれは難しいなと思います。

ですので、適切なサービスの使い方と言いますか、たくさんの資源の中で「これを使ったらいいよ」みたいな選択といいますか、アドバイスができる人はまだ多くないかなと思います。

 

-子どもだけ良ければいいというわけでもないですし、どちらも支えなければいけないという目線ですいうと、サービスはどんどん増えたけれども、いざ使うとなると難しい点もありますね。

 

そうですね。いろいろな、それこそ里親手当も、昔の3倍になっていることを考えれば、認証保育園のお金も出ますし、いろいろな資源や支援もありますけれども、それをどのタイミングでどう使うかということです。

子どもから見るときには、やはり委託後の3ヶ月から半年間はすごく大事です。「全部使っていいよ」とはやはり一口には言えなくて、どういうふうに子どもとのペースを合わせるかというところは、ある程度、里親さん自身の理解も準備をしておかないと難しいかなと思います。

 

-そこは一緒に考えてもらって、一緒に悩んでもらいながら伴走してくれる支援者を里親さんも求められているのでしょうね。

 

そうですね。使える資源と言いますか、チームで育てるというところの伝え方は充実してきているかなと思いますけれども、やはり「里親さんの役割は何か」というところは、支援者側としてきちんと持っておかないといけません。やはり根本的な「安心・安全な場所で変わらない人」というところが里親さんの強みなので、そこは大事にしなければいけないとは思います。

子どもによりますけれども、関係性が必要な時期はあるので、そのケースによってどういうふうにサービスを利用できるといいのか、一緒に相談に乗ってくれる人の大事さはあるかなと思います。

 

-家庭によって違うと思うのですが、「最初の時期が大事」というのはどのぐらいの時期でしょうか?

 

よく「長期外泊中の1ヶ月分ぐらいはしっかり向き合えるように」とはお伝えしています。

だからこそ長期外泊があるのですよね。どうしても無理だったら、「せめて2週間、丸々一緒にいられるとより良いです」とは言っていて、特に乳幼児さんで、すぐに一時保育などを使うと、関係づくりにやはり少し時間がかかると言いますか、やはり「2週間、できれば1ヶ月近くしっかり一緒にいてもらえたほうが、後は良いです」と言います。

 

-今回の私たちの事業でも長期外泊中の支援がありましたけれども、1ヶ月のうち1回だけといった形で、それほど長期的に必要とされているわけではありませんでした。

 

そうです。週1回などですね。

過去にバディさんの育児家事援助で週1回2時間を12週間続けたケースがあるのですけれども、それは里親さんにとってすごく安心なのですよね。

それぐらいだと子どもも「あれ?」と思っている間に里親さんに帰ってきてもらえるので、すごくいいのですけれども、丸々1日を何日も続けるとなると、特に委託当初であれば、やはり誰が養育者なのか、誰が自分の安心・安全な人なのかというのは、特に乳幼児さんがわからなくなってしまうので、そこの難しさはあると思います。

 

今、お話していて思いましたけれども、もしかしたら、親子で生活がスタートしているときに、ずっとお家で親子マンツーマンというよりは、例えばバディさん的な方が、全部預かるのではなくて、一緒にいてくれたり、一緒に何かしてくれたりすると安心かもしれません。

声をかけてくれたり、「こうですよね」と少し話し相手になってくれたりするといいますか、「これで大丈夫だと思いますよ。こういう方法がありますよ」とそばで言ってくれるだけでも、それが週1回2時間だけでも、もしかしたらすごく安心なのかなと思いました。

 

二葉乳児院と併設している地域子育て支援センターで、産休中のお母さんのところに2週に1回40分間だけ行って、20分間だけ一緒に遊んで、2週間の振り返りをして帰ってくるというプログラムを昨年度数件ですが取り組みました。それだけでも全然違うみたいで、誰かが来て話してくれたり、一緒に遊びを共有してくれたり、「大きくなったね」などと言ってくれるだけでも違うというのがあるようです。

向き合わなければいけないときに、そばにいてくれて話をしてくれる人というのは、もしかしたらすごく大事なのかなと思います。

親戚の方が来てくれたり、誰かがいてくれたりすればもちろん良いのでしょうけれども、東京は特にそういう親族が近くにいないことも多いので、そういうときに声をかけてくれる人の存在は大事なのかなと思います。

 

-成長を一緒に喜んでくれたり、共有してもらえたりしたら嬉しいですものね。

 

そうですね。そうだと思います。

 

里親が地域支援の一つとして当たり前の存在に

-今後の展望のようなものはありますか?

 

壮大な夢でもいいですか?

里親さんは地域で生活をされているので、本当に地域支援の一つとして当たり前な存在になるといいなと思っています。養育里親さんも、もちろん養子縁組さんも親族家庭さんも、地域の人でサポートしながら一緒に育てるみたいなことができるといいなと。今、里親は少し特別なもののようになっていますけれども、地域の、一つの子育て支援みたいに思えるようなっていくといいなとは思っています。そして、里親さんも地域の子育てを支える存在になっていくといいなと思います。

 

地域のNPOさんや子育て支援団体さんもお手伝いしてもらえますし、その人たちが一時保護の部分を「やってもいいよ」と言ってくださって登録されたり、ショートステイの協力家庭になってくださったりもするので、すごく心強いなと思います。

やはり里親支援側も地域の力みたいなものを知って活用したほうがすごく良いのだろうなとは思います。

 

-そうやって地域に入っていくことで、逆に地域の人たちも、そういったことを理解したりする中で里親さんが増えていくような、そういうふうにつながっていくと良いですよね。「特別な凄い人だけがやっている。そういう人でないとできない。」ということではなく、里親さんは特別なものではないという意識が広まっていくといいなと思います。

 

地域で育てて、社会的養護の子どもそのものを減らす

-さらに広がって、国際的に見ても日本の里親の委託率が低いという話についてはどう感じていますか?

 

海外の里親委託は、親族里親さんが多いこともあります。日本はそこが圧倒的に少なく、親族さんは「里親にならなくても見て当然」ということで頑張られる方も多いので、そういう背景もあるのかもしれませんけれども、親族里親さんという視点で増やすということも、もしかしたら、「おじいちゃん、おばあちゃんなら見られる」ということでお願いできるのなら増えるかもしれません。

 

ある団体の方が、「里親委託率を増やすだけではなく、家族支援、家庭復帰支援に力を入れることで社会的養護にいる子どもの分母そのものを減らす」というお話をされていて、「そうだな」と思いました。

分母を減らすと、里親さんにお願いしている数が変わらなくても里親さんの委託率は上がっていきますよね。もちろん地域の支援やサポートがあってのことだと思いますけれども、家庭に帰せるケースについて、やはり児童相談所も含めて注力をして、家庭に帰していくということを、地域で育て、フォローしていくことで、社会的養護にいる子どもそのものを減らすという視点も必要かなと思います。

 

ひと昔前は、精神疾患をもつお母さんたちが出産されると、多くの子どもたちは乳児院に来ました。「お薬を飲んでいる間は難しいよね。」「子どもが自分で話せるぐらいにならないと無理だよね。」というのが通常だったのが、ヘルパーや訪問型支援、保育園の充実というところで、地域で育てられるようになった分、入所してくる数はすごく減ったように感じます。

 

また、施設にいる中高生を今から里親さんにお願いするというのは難しさがあるので、乳幼児さんを短期間お預かりして、地域の支援でもとの家庭に帰していくという取り組みをしていったほうがいいのかなとは思います。

養育里親さんのところに長期間いるということがベストかというと、一言では言えなくて、やはり自分の生い立ちの受け止めであったり、18歳以降に(里親家庭を)出なければいけないという現実だったりを考えると、子どもたちが受け止めるものは大きいです。そういったことを考えると、実家族への家庭復帰や交流継続を想定していきたいですし、それが難しければ特別養子縁組を選択するのか、ご親族が見てくれるのか、子どもとご家族にとってどのような形がよいのか、その都度、長期的な視野で考え方を変えていかないと難しいと思います。

 

-社会的養護の子を減らすという点で、もちろん養育里親さんは一生懸命やってらっしゃる方ばかりだと思うのですけれども、やはり実親が育てたほうが良いということなのでしょうか?里親支援をされている長田さんとしてはどう思われますか?

 

それが可能であれば、それがベストだと思います。

今、里親さんのお家にいる子どもたち、養子縁組もそうですけれども、やはり実親さんの存在は切れません。「今、何しているだろうか。生きているだろうか。」というのは、やはりずっとあって、そういう生い立ちを整理していくという過程は必要になってきますよね。ですので、お家で見られるケースがあるのなら、それは地域で全力で支えながらやっていって、難しければ次の選択肢を考えるということができると思います。

里親さん側も実親さん側も「ずっと見なければいけない」という感覚があると思いますけれども、「この時期は難しい」ということはもちろんあると思うのです。実親さんがしんどくなったときに、地域に支えてくれる里親さんの存在があるだけで、そして、必要な期間預かってもらえて、休息を得ることができるだけで、実親さん自身の頑張りも大きく変わるように思います。

 

「地域で頑張って支え続けてなんとか実家庭で」という意味ではなくて、「子どもにとってどこが良いか」というふうに考えたときに、まず家庭復帰として実家族ができるか、難しければ親族さんができるか、ハード面だけではなく精神的な安定も含めてそれが可能かという判断をして、難しかったら、短期間または長期間の養育家庭や、永続的な特別養子縁組という選択をしていくことになると思います。

 

しかしそれは、小さいお子さん含め子ども自身が子どもだけで決めていくことはとても困難です。

専門職と言われるこちら側の人たちが本当にその子の人生を決めるような、それだけの決定権が私たちにあるのか、決定していいのかというところの難しさもあります。現状、決定しなければならないということも多いのですが、やはり子どもたちのことを考えれば「何がベストか」というのは、たくさんの選択肢で考える必要があるかなと思います。そして、どの年齢であっても、子どもがどんなふうに想っていて、どんな意見があるのかということを聴くようにしたいと思いますし、そのためにも、子どもに、しっかりと説明できる、話をすることができる大人が必要だと思います。

 

-ありがとうございます。私たちも養育支援訪問を担当する中で本当に様々な背景のご家庭が多いです。本当にこの環境で子どもが育っていいものなのか、すごく迷ったり悩むところがあるので、お聞きしました。

 

私は昔、虐待対応で保護の仕事をしていたのです。子どもの説得をして、もちろん凄まじいお家から保護してくるケースもあったのですけれども、それでも子どもにとって親はやはりすごく大事な存在として在るのだと思うことも多くありました。

 

「あの家だけれども大丈夫かな?」と思うこともありますし、すごく切ない状況もあると思うのですけれども、一方で、地域で全力で支え続けてなんとか保っているお家が本当にそれだけでいいのかと思うことももちろんあります。支えつつ、もう一歩を踏み出せる家庭なのか、まずは、支えることが大切な時期なのかなど、判断に迷うこともあると思います。

保護者が心身共に子どものことを見られるかという状況の判断は、やはり本当にすごく難しいですし、スペシャルな関係者が全員で支えればなんとか保つでしょうけれども、それが終わってしまったらあっという間に崩れると想定できる家庭にどのような支援がいいのかと悩ましいこともあります。

 

そうやって悩みながら、その都度「本当に今がそれでいいのか」と振り返ってくれる人がいることはすごく大事です。

そういう関係があればこそタイミングがわかって、「もう無理だ」と思う瞬間が出たときに関係機関がどう動けるかというところかなと思います。そこまでやれば子どもも家族も納得するといいますか、「そういう状況でいろいろな人たちが支えてくれたけれども、『今は離れたほうがいい』とこの人が言う」と思うことはすごく大事で、誰が、どう子どもと家族に寄り添い、そして話を重ねるかが大事なのかなとも思います。

 

ー里親支援をめぐる制度の動向とその「隙間」、また充実してきたサービスの「使い方」から、実家庭への支援に至るまで、幅広く貴重なお話をいただきありがとうございました。

里親が地域支援の一つとして当たり前な存在になるよう里親子を地域で支え、同時に、社会的養護の子どもそのものが減るように、困難を抱える子育て家庭を地域で支える。そんな「みんなで子育て」する社会の展望を共有して、これからも連携・協力させていただきたいと思います。

引き続きよろしくお願いします。

 

二葉・子どもと里親サポートステーション

社会福祉法人二葉保育園 

 

日本財団助成事業『訪問型養育支援強化事業』についてはこちらのページをご覧ください。

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