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【イベントレポート】vol.2 「社会的とりこぼし」を防ぐ ネットワーク・ミーティング :質疑応答編

2023年2月26日(日)、日本財団の助成事業「訪問型養育支援強化事業」の中間報告会として、オンラインイベント「社会的とりこぼし」を防ぐネットワーク・ミーティング~「制度の隙間」の親子に出会い、つながり、支えるために~を開催しました。

 

こちらでは2回にわたってその開催レポートをお届けします。今回はイベント後半の「質疑応答編」です。

 

※前半の「プレゼンテーション編」についてはこちらの記事をご覧ください。

※全編をご覧いただきたい方はアーカイブ動画をどうぞ!

 

 

■出演者

渡邊恵理子:社会福祉法人文京区社会福祉協議会 ささえあいサポート係長

岡田妙子:NPO法人バディチーム 代表

田中薫 :NPO法人バディチーム 子育てパートナー

■司会

濱田 壮摩:NPO法人バディチーム 理事

現場の支援者が活動を継続するために必要なこととは?

濱田

ちなみに渡邊さんから田中さんに聞きたいことはありますか?

 

渡邊

田中さんが10年もの間、このような活動を続けること自体が大変だと思います。同じような活動をしている人の中には、すぐに成果が見えなかったり、結果が出なかったりすることで、このような活動を続けられなくなってしまう人もいると思います。

もし事業者側で、そうした人たちが活動を続けられるような働きかけがあるとすれば、どのような取り組みが考えられるでしょうか?

 

田中

支援に入っている人たちが困っていることを聞いてもらったり、支援者が話せる環境を整えることは、非常に重要だと思います。子どもが支援者に話をするのと同じで。真面目で頑張っている人ほど、苦しい思いをすることもありますから。

(現場の支援者は)何のためにやっているのか、わからなくなることがあると思います。でも、結局は自分のためにもなるかなと感じられるようになると、そういうことが自分のやりがいにつなげられるように、考え方が変わるかもしれません。そのきっかけがあればいいなと思いますが、難しいところはありますよね、きっかけは自分で作るものではないので。

 

濱田

ありがとうございます。現場での支援者さんの活動が長続きするためのポイントについて、田中さんから「話を聞いてもらえる場が必要」ということでした。

バディチームの場合、コーディネート業務を担当している事務局員も全員が専門職というわけではありません。現場での経験を活かして、事務局に入っています。ざっくり言うと、(現場と)いっしょに悩んでいる、という状態です。「大変ですよねえ」「どうしましょうねえ」と。

もちろん行政の事業の枠組みについての知識や、支援の方向性についての情報はあるものの、必ずしも専門的なアプローチでの助言ができるわけではありません。また、必ずしも専門的な助言が功を奏するわけでもないというのがこういう家庭の支援でもあり、支援者といっしょに悩むというスタイルで、岡田さんの発表の言葉でいえば「伴走」して、支援者の支援をしているということかなと思います。

渡邊さんは社協としてコミュニティの環境作りや中間支援的なことも行っていますが、ファミサポやいきいきサポートなど家庭の個別支援も行っています。この支援を行っている現場の支援者さん=協力会員さんに対するケアは、どのような形で行われていますか。

 

渡邊

社協にとっては協力会員さんも利用会員さんも、両方ともお客様のようなものです。地域で困っている方を助けてほしいというような形で募集もしているので、協力会員さんの中には成果や結果を求める方もいます。そこで思ったような結果が出なかったときに、間に入る相談員(ファミサポだとアドバイザーといいます)が、その部分について話を聞くようにしています。

しかしどうしても、それぞれの価値観が合わない場合もあります。特に新型コロナウイルス感染拡大の影響下では、やりたくない・不安なサポートはやらないでくださいと、勇気を持って撤退しましょう、という声かけをしています。不安な気持ちや嫌な気持ちがある中でサポートをやって、いいことはひとつもないと思います。

ただ、何の不安もなくできるという担い手さんは限られてしまうので、そのために相談員が近くにいて、もう少し頑張ってみようと思えるような関係性を築いていけるようにすることが大切だと思います。

 

濱田

ありがとうございます。岡田さん、お話を聞いて、バディチームとの類似点や相違点が感じられましたか。

 

岡田

ほとんど共通しているかな、と思いました。バディチーム事務局のコーディネーターも、まずは子育てパートナーさんを大切にするという基本的な考え方があります。地域の住民の方々のいろんな価値観への対応、募集のしかたについては、難しさもあるなと思います。

社会全体で支援が必要な時代において、ファミサポさんのような形、地域の身近なところで動ける形は非常に大事だと思います。時代の変化に伴う難しさもあるという話もきいていますが、この形をなんとか発展させられないかと、思ったりしています。

個人情報とは何ぞや?というコンセンサスを

濱田

個人情報について、渡邊さんが実際に、個人情報が壁になって話(支援)が進められなかったような場面があればご紹介いただけますか。

 

渡邊

いきいきサポートやファミリー・サポート・センターなどの事業でこちらから専門職へつなげる場面については、壁らしい壁を感じることはあまりないのですが、一方で、社協が地域にアウトリーチして見つけた課題を専門職につないだ後、その後どうなったかが見えにくいことがあります。

その後の伴走がどのように行われるかとか、こういうルールがあるとかいったことが定められていないので、見つけたものを専門機関へつないだだけで、その後の状況がわからない、ということはあります。フィードバックがなかなかもらえない一方で、地域の他の方からは「(その後)どうなってるの」ときかれたりもして、状況がフォローできない、ということがありますね。

 

濱田

渡邊さんのスライドにもあったように、「バトンを渡す」だけ、のような展開になってしまっているということですね。

 

渡邊

そうですね。こちらとしては、そのバトンをみんなで囲むような形にすることが重要だと考えており、専門機関の方もまた同じように考えているかもしれません。ここに個人情報という要素がからむと難しさが出てくるのかもしれません。ただ、フォーマル(専門職)とインフォーマル(地域団体)の人たちが一堂に集まって、「個人情報とは何ぞや」という話をする機会があったかというと、なかったと思います。とくに要対協(要保護児童対策地域協議会)に呼ばれることも少ない地域団体さんは、そういう個人情報についてのコンセンサスをとること自体ができない、というようになっているのではないかと感じます。

 

濱田

専門機関につないだ後、どうなっているのかというのは気になりますよね。このような問題は、制度自体よりも運用側にあるかもしれません。民間がつながっていれば、把握できることかもしれないなと感じました。

岡田さん、今回の助成事業では行政の枠組みを離れたところの相談機関からの相談を受け、その結果、行政の支援につなげたケースもありました。その後の状況については、相談元の機関のみなさんとはフォローアップできているのでしょうか?

 

岡田

それぞれ異なる状況がありますが、頻繁に情報共有をしつつ進めているケースはあります。一方、ご本人からの相談がなければ、個人情報的な理由からあえてその後の状況をこちらからは出せないこともあります。ただ、民間機関同士であれば、行政が介入するよりも互いに理解しながら進めることができるため、スムーズに進む場合もあるかもしれませんね。

私の周りで、地域で活動している方や力のある方が、子ども食堂やいろんな支援などを立ち上げています。その中でたとえば気になる親子がいたりすると、こちらからは行政に伝えるんだけれども、向こうからは個人情報だから何も言えないと言われてシャットアウトされてしまうことがあり、怒っている人たちがすごくたくさんいるなと感じています。

民生委員さんや主任児童委員さんなど、それこそ行政との連携の中で心配な家庭の見守りの役割を担っているはずの方々に、情報がほとんど入らないそうです。「あの建物」「あの辺の場所」「このくらいの時間帯」ぐらいしか情報がなく、どうやって見守っていけばいいんだということで怒ってらっしゃる。「子どもの見守りのために必要なことなのに」と思いますね。

 

濱田

これは我々としても今後、民間機関からの相談で行政の支援につないだその後も、(各機関や家庭と)つながっていられるかという課題でもあるかなと思います。バトンを渡して終わり、にならないような関わり方ができるか、という課題ですね。

「ファミサポ」「いきいき」と「養育支援」の違い?

濱田

参加者の方から質問がありました。ファミリー・サポートやいきいきサポートと、子育てパートナー活動の提供元や事業が異なることはわかりましたが、提供される内容はほぼ同じと理解していいでしょうか?という。この質問は、田中さんが両方の活動をやられているので、お答えいただけますかね。

 

田中

地域の活動ではファミサポや、産後のサポートもありますが、「養育支援」というほどのものではないかな、というのが大きな違いですかね。そちらの方が(支援に)入りやすいですよね。内容的にもヘビーでもなく、頼む方もご自分で申し込んで利用されているので。

 

濱田

はい、ありがとうございます。虐待のリスクのピラミッドについて、岡田さんの発表にも入っていましたが、いわば「低リスク」の家庭にファミサポとかいきいきサポートが入っていると、違いがあるとすればそうしたリスクの度合いかな、というところでしょうか。

渡邊さんの見解もきいてみた方がいいかもしれません。いきいきって低リスクなのか、という。

 

渡邊

実は心配な方もいます。何か困っている方は、いきなり子ども家庭支援センターや児童相談所に連絡するというよりは、身近なところから探していこうとしますよね。家事支援を行っているいきいきサポートや、子どもの送迎や預かりをしているファミサポに連絡する、と。

そうした厳しい課題のある家庭の場合は、専門機関につないでいくことになります。また実は、私たち相談員が訪問したときにはわからなかったことが、実際に支援してくださる方との関係ができ始めたら(課題が)わかったというようなケースもあります。そういう場合は、現場の協力会員の方からのフィードバックが非常に大事ですので、違和感があればお知らせいただけるようお願いしています。

 

濱田

きっと間口という意味ではファミサポが広いけれども、ケースとしては混じっちゃってる、と。

 

渡邊

そう思います。混ざっちゃってて、いいんだと思います。

支援が「終了」した後の情報共有

濱田

田中さんから岡田さんや渡邊さんに聞いてみたいことがありますか?

 

田中

活動の継続の話と、先ほどの個人情報の話とで関連して思い出したのですが。私がずっと前に関わったお子さんが、就職した時に私に対してお礼が言いたいと言ってくれたことがありました。私が何年も前に支援に行ったことを覚えてくれていて。

区の担当の方には「これはレアケース」と言われましたが、それが私の耳に届いたことで私はすごく嬉しかったんです。

もしこういう、支援が終了した後のことも情報共有していただいて知ることができると思えれば、きっとよい結果でないことも多々あると思いますが、やりがいになったり、続けていくモチベーションにつながるかなと思いました。実現することはなかなか難しいかなとは思いますが。

 

濱田

ありがとうございます。岡田さん、私たちの委託事業の枠の中では、期間でばっさりと終了になる場合も多いため難しさもあると思いますが、これまでの経験で、家庭の変化を長期的に現場の支援者にフィードバックする機会がありましたか?

 

岡田

行政の人事異動が本当に早く、ケースワーカーさんも頻繁に変わります。そのため親身にやり取りしていた人がいなくなって、関わっていた家庭についてわからなくなってしまうという、体制の問題もあるかなと思います。時折、教えてくださる方もいて、それは現場の子育てパートナーに伝えていると思います。

 

渡邊

ファミサポの方は協力会員の家で預かってもらったり、日程の調整などもあるのでお互いの直接連絡で行っています。 そうすると年賀状のやり取りなどがずっと続いているといったケースもあります。

高校くらいで不登校になってしまったときに、過去に預かってくれていた人の家に行って、そこで回復力を高めて、普通の生活に戻っていった、というような話を聞かせてくれた協力会員の方もいらっしゃいました。

また、やっぱり直接「ありがとう」を言われることは、本当にやりがいにつながるということがあります。結果がすぐに出るわけではないですが、1つでも、手紙をもらうだけでも印象に残り、頑張ることができるということがあります。そのように協力会員さんの心を動かし、原動力になる利用会員さんにも感謝しかないなと感じています。

 

濱田

ありがとうございます。ファミサポさんならつながっていられる、というのはヒントになるような気がしましたね。養育支援のような「高リスク」のための支援が期間によって終了したあとも、ファミサポや地域の居場所のようなところでつながり続けてもらって、またその機関どうしがつながっていれば、現場支援者にも「その後」の情報が入ってくるかもしれない、と。

まとめ

濱田

最後に、お三方からご感想をいただいて終了としたいと思います。

 

渡邊

地域で子どもたちのために活動したいと思っている方々の思いをどのように実際に困っている方々に届けることができるか、なかなか正面から考える機会がなかったため、とてもありがたく思います。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

 

田中

やはり人手が増えることが一番だと思っています。最初に岡田さんも言われていたように、支援はあまり簡単なように言ってはいけないものですが、そこまで難しくもないというか、難易度はその人の考え方次第で、それぞれのできる範囲で、助かる人がたくさんいます。そうした(活動を始める)きっかけを作ることが、私の今日のお話でできていたらいいなと思います。

 

岡田

今日は本当にたくさんの方、専門機関や専門職、行政の方々もご参加いただき、本当にありがとうございました。また今後もこのような機会がつくれればいいなと思いますし、みなさんとぜひつながっていけると嬉しいなと思います。

 

濱田

今日ご参加のみなさんは、それぞれに専門性を持った専門職の方々が多いと思います。そういうみなさんとしっかりつながっていきたいと望んでいます。

それぞれの現場で見えている心配なケースなどもきっとあると思います。「どうしたらいいですかね」というお話があったら、まずはぜひ連絡をいただきたいと思います。見事なソリューションが出せるわけではありませんが、一緒に悩んで、一緒に手を動かして、一緒に汗をかいてやれたらいいなと思っています。本日はありがとうございました。

 

→ 全編をご覧いただきたい方はアーカイブ動画をどうぞ!

 

▼日本財団助成事業『訪問型養育支援強化事業』についてはこちらのページをご覧ください。

 

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