2024年度版『おうち食堂メニュー集』ができました
お知らせ 2024.08.22【イベントレポート】vol.1「社会的とりこぼし」を防ぐ ネットワーク・ミーティング :プレゼンテーション編
2023年2月26日(日)、日本財団の助成事業「訪問型養育支援強化事業」の中間報告会として、オンラインイベント「社会的とりこぼし」を防ぐネットワーク・ミーティング~「制度の隙間」の親子に出会い、つながり、支えるために~を開催しました。
こちらでは2回にわたってその開催レポートをお届けします。今回はイベント前半の「プレゼンテーション編」です。
※後半の「質疑応答編」についてはこちらの記事をご覧ください。
※全編をご覧いただきたい方はこちらのアーカイブ動画をどうぞ!
■出演者
渡邊恵理子:社会福祉法人文京区社会福祉協議会 ささえあいサポート係長
岡田妙子:NPO法人バディチーム 代表
田中薫 :NPO法人バディチーム 子育てパートナー
■司会
濱田 壮摩:NPO法人バディチーム 理事
岡田妙子(バディチーム 代表)
「とりこぼし」を防ぐ取り組み 1年目の中間報告
バディチームは2007年から虐待防止を目的に活動しています。ご家庭にはさまざまな事情や背景があります。その中でも保護者の精神的な不調や精神疾患の方が圧倒的に多いという印象を持っています。
虐待予防については、虐待の重症度を示す図があります。この図には段階が示されており、段階は地続きになっています。全体的な予防が必要であり、私たちは上から下まで幅広い範囲で取り組んでいます。
特に、市区町村と児童相談所の矢印が重なるあたりが最も多いと思われます。
制度上での活動の経験を活かして
私たちはこのような経験を続け、昨年15周年を迎えましたが、これまでは制度上の養育支援訪問事業や食支援等の運営管理などを実施してきました。
もとよりこうした事業も、「最後の砦」と言われたり、他の支援が使えないときのための支援という部分もあります。また、なかなか支援につながっていない家庭に最初に導入するための支援という位置づけもあります。それでも継続していく中で、制度上の期間や対象、支援内容などの制約による限界や心配も感じることがありました。
また、行政に拒否的な家庭というのも少なくなく、時折、相談が入ることもあります。
そんな中で、支援が必要であるにもかかわらず、制度の隙間にあったり、「とりこぼし」になっている家庭がたくさんあるのではないかという、多くの家庭に適切な支援が行き渡っていない可能性が感じられました。
今回の助成事業の取り組みは、私たちのこれまでの経験を生かし、もっとできることがあるのではないかという思いから生まれました。
2022年度日本財団助成事業について
大きく3つの柱で事業を進めていまして、1つは、他団体・多職種による情報共有・事例検討会です。2つ目が、実際に家庭を訪問する、家庭訪問型養育支援の実施。そして3つ目が本日のこの中間報告会ということになります。
1つ目の他団体・多職種による情報共有・事例検討会では、インタビュー形式で様々な団体の方々のお話を聞いてきました。
そして2つ目の、実際に家庭訪問型養育支援の実施というところでは、主に民間機関から相談を受けて、対象家庭を決め、実際に訪問をして支援を実施しています。その中で関係機関との連携と情報共有を行っていきます。
様々な機関につないでいくことが重要であるという視点から、公的な支援や民間の支援、また地域の社会資源につなげることができないか模索しながら進めています。
そうして実際に訪問している中で見えてくる社会課題を明らかにし、制度の見直しの提案などを行っていくということを目的にしています。
これまで相談のあった機関
そのため今回はたくさんの家庭訪問をすることが主な目的ではなく、じっくりと対応を進めています。
そうした中でも、民間機関の担当者などが心配な家庭に対して何か利用のできる訪問型支援はないかと探す中で、バディチームを見つけて連絡していただきました。合計10件程度の訪問型支援を実施しています。
中には宿所提供施設からの相談もありました。生活保護法に基づく支援施設です。DV避難者の方が多く利用されており、シェルターのような機能も備えられています。ただし、完全なシェルターというわけでもなく、生活は自立していることが条件となっていたり、3ヶ月で退所することが条件として設定されています。期間は6ヶ月ほどに延長される場合もあるようです。
また、メンタルクリニックの方からは、アルコール依存症の保護者である母親が増えており、そのため子育てが大変な状況になっているとのことで、行政の支援がうまくつながっていかないというご連絡がありました。
地域活動支援センターでは、精神的な治療が必要な人に向けて、利用できる居場所や電話、来所による相談業務を提供しています。また、必要に応じて家庭訪問・外出同行も行っています。
また私たちがこれまでも関わりのあった里親支援専門相談員さんや、個人としてつながりのあった知人からの相談を受けて支援を実施しています。
対象家庭の背景 ― DV避難中
対象家庭の背景は複雑です。例えば、DV避難中の方が数件。まずはその施設にたどり着くまでに大変疲弊していますし、親も子もメンタル的な負担があり、受診中であったり、服薬中であったりすることもあります。
離婚が成立しておらず住民票が(施設のある自治体に)ないため、使える支援がなく困っているという相談もありました。持病のある方は、これまで障害ヘルパーなどを使っていたもののそのような支援も受けることができない、という状況もありました。
実は渡邊さんとの事前の打合せの中で、そんなことはないのではないか(住民票がなくても支援は使えるのではないか)というお話になりました。かなり時間がかかるということや、地域特有の支援が使えないという事情があるのかもしれません。
そうした全く余裕がない状況で、親から子どもへの暴言があったり、不適切な対応が心配だったり、兄弟姉妹の一番上のお子さんがヤングケアラーの状態にあったりといった心配な状況で、ご連絡をいただきました。
対象家庭の背景 ― 保護者の精神疾患
精神疾患を抱える方で、行政に対して拒否的なことがありました。また生保や非課税世帯には支援が使えるものの、それより少し収入があると使えなくなるという問題があります。
また、ご本人が非常に繊細な部分を持っているため細かいことが気になって、支援者を選んだり、拒否したりすることでなかなか支援につながらないということもあります。
対象家庭の背景 ― 保護者の身体疾患・きょうだい児
保護者が難病治療中のケースでは、つらい状況であるにもかかわらず認定が下りるまでにかなり時間がかかるため、必要な公的支援が受けられない、という状況。
子どもが難病をもつケースでは、保護者がいっぱいいっぱいの状況の中で、上のきょうだい児に厳しい言動が出てしまうという相談。
対象家庭の背景 ― 里親
また里親家庭については、東京都だと正式な委託前に1ヶ月程度の長期の外泊期間があります。この期間はお互いの状態を確認するためのものでもありますが、専業主婦家庭を想定した設計になっています。共働きの里親夫婦が増えた現代では、どちらかが1ヶ月休職しなければならず、保育園等の利用もできないため、非常に大変です。このような状況で、最初の段階で疲弊してしまうケースがあります。
里親さんをみんなで支えようという社会の中で、最初に苦行を強いるようなことではネガティブなメッセージを伝えてしまうのではないかと、里専員(里親支援専門相談員)さんから相談がありました。
また、特別養子縁組が成立すると、里親さんではなく一般の子育て支援として扱われるため、これまでの支援が受けられなくなるという心配の相談も寄せられました。
制度につながらない理由
制度につながらないという理由では、まずは制度自体を知らなかったり、本人も専門機関も知らなかったりすることがあります。また、公的支援につなぐまでに時間がかかる場合もあります。さらに、先ほども述べたように、住民票がない場合や所得制限があるため、制度を利用することができないこともあります。
このような問題は、行政に対する拒否感や、過去に窓口で嫌な思いをしたことがあるという方にとっては特に深刻です。困難家庭に限らず、非常に広くこの問題が存在していることを改めて実感しました。
利用家庭・相談機関からの声
利用者へのアンケートの結果によると、未就学児は制度が多いのに、中高生になると制度がなくなってしまうこと、また、病気の親を支援してくれる制度がないためにつらく孤立しているという声がありました。
別の視点からは、訪問支援サービスは出かけなくても利用できるため、問題が深刻化する前の早期発見や、本人が自覚していない課題の発見ができるかもしれないという感想もありました。
相談機関からは、私たちの今回の支援が使い勝手が良く、早くてシンプルだという声もいただきました。実際には、そんなに早くはできていないはずなのですが、おそらく3週間から1ヶ月以内に何とかしたいというニーズがある中で、既存の公的支援よりは早い、ということかもしれません。
既存の制度の状況 -自治体格差
既存の制度では「養育支援訪問事業」があります。専門職による相談支援と、非専門職による育児家事の援助という2つの側面がありますが、この育児家事援助の実施率が低いという問題があります。
養育支援訪問事業の実態調査結果(*)からも、これを実施しているといっても、その自治体の予算には130倍や170倍という格差があることが分かりました。他の制度でも自治体格差というものは、私たちも感じているところが多くあります。
* NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会(2022.3)
「東京都における養育支援訪問事業の改善課題に関する調査研究」
既存の支援体制への見直し 制度への提言活動
また養育支援訪問事業は再来年度より育児家事援助の部分がなくなり、新たに「子育て世帯訪問支援事業」として始まります。それに当たって、NPO法人ホームスタート・ジャパンさん、NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会さんとともに昨年10月に厚労省に要望書を提出しています。
その中では、家庭・行政・現場支援者の間に入り、様々な調整を行うコーディネーターの存在が重要で、その手当や研修も必要だということを伝えています。
制度の見直しと同時に、既存の制度の中でもできることを
そうした既存の支援体制の見直しという方向で、子育て世帯訪問支援事業や、里親家庭むけの育児家事援助者派遣についても、先に述べた長期外泊期間中の課題も含めて、改善していくような取り組みが必要だろうと思っています。
一方で、現在の制度の中でも、できることがあると思われます。
目の前に困った親子がいるのにちょっと手を貸すことが制度上できない、といった場面に、少し対応を変えるだけでとても助かるはずなのにと、現場でもどかしさを感じることがありました。
例えば私たちの普段やっている養育支援訪問事業においても、行政の仕様書に記載されている支援内容について、最後に「その他区長が認めるもの」という1行があることが重要です。担当ワーカーと相談して、ちょっとした例外対応を検討してみるなど、柔軟に対応できるようにと考えています。
同じ制度の枠内にあっても、施設や事業所によってやってることはずいぶん違うということも多くあると感じています。ある母子生活支援施設では、入所期間は2年と決まっているけれども、退所後も家庭を訪問したり、遊びにやってくることを積極的に受け入れて施設で食事ができるようにしているそうです。これは自戒も込めて、もう一歩、枠を超えてできることに取り組んでいきたいと考えています。
渡邊恵理子さん(文京区社会福祉協議会 ささえあいサポート係 係長)
住民参加型事業と子育て団体のネットワーク作りを通して
発表に入る前に、まず社会福祉協議会(社協)の事業について少し説明させていただきたいと思います。社会福祉法に基づき、地域福祉の推進、地域の助け合いの体制を作っていくことをミッションに、各自治体単位で設置されている団体です。
展開している事業は各社協で異なっていますが、今回お話する、ファミリー・サポート・センターの事業や住民参加型の家事支援の事業は、多くの社協が実施しているものと思います。
自己紹介
就職氷河期世代で、社会人1年目ですぐに退職をして、その後転職で社会福祉協議会の職員になったというような人間です。
現在の職場は2つ目の社協で、2つの社協を通じて、生活福祉資金の貸付、ボランティアセンター、総務、それからいきいきサポートの相談員を経験してきました。2017年4月にささえあいサポート係が新設され、ファミリー・サポート・センターといきいきサポートの2つの事業を柱とする部署の係長として、6年目になります。
係長になった時には、既に2児の母親になっていました。相談に来るお母さんたちの話も、自分の感じてきた痛みもあり、なんとなく理解できているかなと思っています。
「住民参加型」事業
ささえあいサポート係が担当している「住民参加型」の事業は、主に3つに分けることができます。「いきいきサポート事業」、「みまもり訪問事業」、「ファミリー・サポート・センター事業」です。
いきいきサポート事業は国の事業ではなく、文京区さんからの補助金を受けています。この事業は全国的に展開されていて、(制度として)どこでも行われていると思われがちですが、社協の自主事業であり、みまもり訪問事業も同様に、補助という形で資金援助をいただいています。
一方、ファミリー・サポート・センター事業は文京区からの委託を受けています。これは国が全国的に展開する「子育て援助活動支援事業」として知られ、「援助」の「支援」のような、やや複雑な名前の事業です。この事業では、地域の方に子どもの送迎や預かりをお願いすることになります。
ネットワークづくりや参加のきっかけづくりも支援
また、この他に2つの事業を行っています。
1つは参加のきっかけづくりとしての「子育てサポーター認定制度」です。
国の制度で「子育て支援員」という制度があります。文京区の子育て支援課で実施されるその支援員研修に加えて、社会福祉協議会が独自に実施する研修を組み合わせて受講することで、受講内容の組合せによって「〇〇サポーター」に認定するという事業です。
このサポーター登録をした方は、ファミリー・サポート・センターや、子どもの居場所、具体的には子ども食堂や子育てサロン、子育てひろばなど、地域の子育て支援に関連する活動におつなぎしています。
もう1つは「地域の子育てサポート連絡会」で、子どもに関する活動を行う団体同士の交流の場を提供することで、これらの団体が協力し合えるような取り組みをしています。
取りこぼしが生まれる背景 -地域でのつながりがもちづらい
その背景の1つ目は、地域でのつながりが持ちづらいことです。
子育てをしている場所と育った場所が同じでないことが、文京区はじめ都市部で多いと思われます。親族からの支援が受けられない。また、もともと地元として住んでいた場合、育った場所で顔見知りや友達がいるため、そのつながりの中で支援を受けられるという可能性もあると思いますが、仕事をきっかけに引越してきたような場合、共働きで、会社の拘束時間も長く、家と職場の移動だけになっているとすると、地域につながれといってもなかなか難しいものがあります。
またこれは世代によるものかもしれませんが、色々なものがインスタントに「サービス」として入手できるのが当たり前のようになっている環境にあって、地域での関係づくりのような時間のかかるものについての抵抗感もあるのではないかと感じています。
取りこぼしが生まれる背景 -子育て世代と社会設計のミスマッチ
2つ目に、子育て世代と社会設計のミスマッチがあるのではないかということです。例えば、子育てにおいては依然として女性の方が負担が大きい傾向がありますが、特に子どもが手が離れづらい30代や40代から、がんになる女性の方が急激に増える傾向があるようです。
また、精神疾患の方についても、40代や50代が最も多いようです。
つまり、いわゆる「子育て期」に、治療が長引きやすい病気にかかる人が増えているように感じます。
こうした治療を在宅で行うことを国としても推奨している一方で、治療中の親の子育てや家事を支援することを主目的とした社会資源がどこにも存在しないようです。
子育てをしている人は基本的に子どもを産めるぐらいだから健康であるという前提で世の中が設計されているのではないでしょうか。
取りこぼしが生まれる背景 -フォーマル資源とインフォーマル資源の交流不足
フォーマル(専門職・行政)な資源でも、インフォーマル(非専門職・地域団体)な資源でも、子育てをしている親御さんや、何らかの病気や困難を抱えている方にとっては、つながれる場があればいいと思います。
ただ、フォーマルな資源に引っかからなかった方が、インフォーマルな資源で何かつながりを見つけたとしても、それだけでは不十分だと思います。多分、(それに加えて)フォーマルな資源につながる方がいいです。
一方で、フォーマルな資源でも、ジャンルごとにチャンネルがいくつかありますが、自分たちの担当している事業ではできないけれども、こっちの専門職でいけるかもしれない、というような展開が生まれる環境にはまだ十分になっていないのではないかと思います。自分たちの専門分野については詳しいけれども、他の仕組みではどうかなというときに、自分が切れるカード(他分野の事業の知識)を持っていない専門職もまだまだいるのではないかと思います。
要は、交流や相談の機会が少ないという問題があるように感じます。例えば、要保護児童対策協議会など、多数の専門職が集まる場は、どちらかというと報告の場みたいな感じで、相談・協議はあまりできていないのではないかと思います。
社会福祉協議会は、専門職の方から「何か紹介できる地域資源ないですか」という相談を受けますが、「〇〇さんがやっている〇〇の活動」など、生身の方が行っている事業として理解、連携することが必要であるはずなのに、突然、ケース(家庭)をバトンのように渡されてしまうことがあるように感じます。
そのためには、フォーマルな専門機関が、インフォーマルな地域活動を知るための交流の場が必要です。
社協として、住民参加型事業を担うささえあいサポート係として
これらの背景を受けて、社協のささえあいサポート係としてやっていけると思えることは、1つは、地域と子育て世代がつながるきっかけとなるような団体を支援することです。
ふれあいいきいきサロンや子ども食堂の数が増えれば増えるだけ、お父さんお母さんたちがそれを目にし、地域につながる機会が増えるということだと思うので、そのように取り組んでいきたいと考えています。
2つ目は、子育てに関する地域団体どうしの連携が図りやすい環境を整備することも大切です。冒頭に説明させていただいた地域の子育てサポート連絡会を活性化するということになりますが、今年度開催した際には約50団体くらいが参加しました。参加者が「こんなに団体があるんだ」と驚いていたくらいなので、そういった方々が抱える共通の課題感を見える化していくことも重要です。
そして3つ目は、フォーマルの専門職とインフォーマルの地域団体が同じテーブルにつけるような機会を設けていきたいと考えています。
地域団体の活動がまばらにあるよりは、少しでも数多くある方が、家庭とつながる機会は増える。
そして地域団体や地域住民同士が手を携え合って、同じ景色を見ている者どうしで、一つの声として発信していくことができる仕組みを整えていくことが、社会福祉協議会ができることだと考えています。
そしてできることなら、同じテーブルに地域住民・地域団体、民間団体、そして行政の方々が集まり、お互いが同じ景色を見て、お互いの動きの特徴を理解しあい、一緒に取り組みを話し合う場を作ることができれば、より効果的な取り組みができるのではないかと思います。
クロストーク
濱田
ここからはクロストークとなります。まずは岡田さんから感想をお願いします。
岡田
まず私は、渡邊さんと出会って社会福祉協議会が住民寄り・民間側であることを再認識しました。
またフォーマルもインフォーマルも同じテーブルについて同じ景色を見るところから、というお話は、社協としての方向性がよく伝わってきました。これを実現するにあたって、行政と民間との間の「個人情報の壁」という問題があるだろうと思います。民間組織が活動していこうとする中でなかなか難しさのある部分です。
その点で、私たちの活動では、実際に家庭のことを一番よくわかっているのは現場の支援者、子育てパートナーさんだったりすることっていうのが結構あったりするんですね。行政より、現場の子育てパートナーの方が家庭の情報をもっているという状況の中で、早期に情報を共有することで、防げることや予防できることがあります。このようなことを積み重ねる長年の歴史の中で、行政からも情報が来るようになったと感じています。
濱田
ありがとうございます。渡邊さんからコメントと質問あればお願いします。
渡邊
バディチームさんの子育てパートナーさんの活動と、社会福祉協議会の住民参加型の活動は似ていますが、微妙に違う点もあるのかもしれません。
社協は、参加支援のようなところがどうしてもメインになっているように思えます。ただ、前回のインタビューで話したように、課題がある状況に置かれた人たちの権利擁護することも私たちの仕事です。そのようなテーマを持って活動しているNPO法人の方々と、社協とがどのように協力し、地域社会に伝えていけるかが今後の課題だと感じました。
岡田
そうですね。本当に子育て支援が社会化する必要があるときに、その支援の量が足りないと感じることがあります。そのときに、いきいきサポートのように地域住民の方々が支援に入ってくれることが非常に重要だと思います。
ただ、一般の地域住民の中には、精神疾患を抱えている方々に対して、漠然とした(ときに不正確な)不安を抱いている人もいるようです。そんな気持ちを持つ人々に対しても諦めずに、伝え方を変えたり、納得するまで事務局のコーディネーターが現場に同行するような「伴走支援」を行うことで、精神疾患や診断名ではなく、その人との出会いやその人を知ることによって、理解が深まることもあると知りました。
運営管理側にしっかり予算がついて、「伴走支援」を担える人も増えると、状況は変わっていくだろうなと思います。
現場支援者の実像
濱田
ここで、実際に現場で活動している方を紹介したいと思います。バディチームの子育てパートナーの田中薫さんです。
一般企業にお勤めの後、結婚を機に退職し、専業主婦として10年ほど過ごしていた田中さん。その後、都内のとある区が実施していた訪問型子育て支援事業にボランティアとして参加し、活動を始められました。活動を始められた後に保育士の資格を取得し、保育園勤務を経て2021年にバディチームに子育てパートナーとして登録。他に産前産後ケアを行う団体でも現場支援者として活動しています。
(田中薫さん)
田中
10年間主婦として過ごした後、自分が会社員として戻れるということが想像できなくなってしまっていて、いったいこれから何ができるかな、と考えていました。
そうしたときに、自分の子どもを通して学校の活動だったり地域の活動だったりはやっていたので、そういうことならできるかなと、地域の家庭支援センターのボランティアや社会福祉協議会のボランティアの講座にまず参加しました。
最初は子どものことなら何かできるかなというくらいで始めたのですが、その後、講座や研修を受ける中で、社会の状況だとか、事業が必要とされている背景だとかがわかってきて、興味をもっていきました。
濱田
訪問型支援ということについて、あまり馴染みのない方もいるかもしれません。訪問先では、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?
田中
例えば小学生くらいのお子さんの場合、毎日お風呂に入ることや、ご飯を座って食べることなど、日常的に「普通」のことが「普通」に行われる環境でないお宅があります。そういう場合、家庭生活の一般的な声かけやお話をしています。
あとは掃除などの家事。掃除といってもピカピカにするのではなく、遊べるスペースや生活スペースを作る程度の掃除です。あと、お食事ですね、お料理を作るお手伝いも多いです。
お子さんとは一対一で遊ぶ時間を作ったりもします。その中で、段々と通っている間に、ぽろっといろいろなお話をしてくれるようになるのが、一番の大事なところかなと思っています。
面倒をみるとかしつけるとかいうことではなく、お話のできる環境を作っていく、っていうことなのかな、と。
濱田
おそらく、単に掃除や料理という作業をするだけでなく、いろいろなことを意識されているのだと思います。活動に取り組む際に、心がけていることはありますか。
田中
まず、家庭に入る前には、家庭の背景などデータ的なことはあまり気にしないようにしています。文字だけで読むのと実際とでは全然違ったりすることもあるので、固定観念をもって入らないようにしています。経験として、実は(事前の)細かい話よりも、後付けで自分が感じて、わかっていくことの方が多いような気がしています。
あとは、その家にはその家のルールや生活様式があります。自分の考えと合わない場合も、他人である自分がやりたいようにやるのではなく、まずはその家のルールに従うように、心がけています。
濱田
ありがとうございます。1点目は、診断名ではなく、個々の人物を見るということ。
2点目は、家庭に対して指導的にならないということ。これは、家庭ごとに異なる価値観があることを受け止めるということなのかなとも思います。
これまでの経験で、やりがいを感じた場面と、逆に難しさを感じた場面について教えてください。
田中
最初は、「改善されたらいいな」という気持ちを強く持って現場に向かってしまっていました。でも、その家にはその家の積み上げてきた歴史があって、たった週に1回入る程度で変化させるというのは無理な話でした。自分が目に見える成果を出さなければいけないというプレッシャーというか、そうすることでやりがいを得ようとしていたのだと思います。
今は、しばらく通ううちに結果として何か変化がついてくれば、それでいいかなと思うようになりました。
この境地に至ったのは(活動が)10年を過ぎてからです。訪問先に自分の背景は持ち込まないけど、逆に訪問先を出たら、それを家には持ち帰らないようにするという、頭を切替える作業をしています。(訪問先の)お母さんとお話をしていてしんどい時もありますが、私が悲しんだり辛い思いをしても、その家庭がよくなるわけではないので。
濱田
最後の質問ですが、さまざまな困難な事情を抱えた家庭に、地域住民が参画していくことの意味や意義について、田中さんなりに現場で感じていることを教えていただけますか。
田中
子どもがまだ小さかったときの話です。子どもの友達で、お母さんが外国人の方がいたのですが、何年か付き合っているうちに、行事のときや持ち物があるときなどお母さんが日本語が読めなくてわからないことがあると、その子がうちに聞きに来るようになりました。それって子どもの力だと思うんです。応える大人の方は誰でもできることかなって。
子どもが困ったことを話せる場所を用意するのは大人の側の問題かなと思いますが、それはどこかの施設の職員でもいいし、学校の先生でも、近所のおばちゃんでもいいはずです。私はそういう環境をつくっていくことが、地域支援の最初の一歩かなと感じています。
→ 質疑応答編に続きます!
→ 全編をご覧いただきたい方はアーカイブ動画をどうぞ!