特定非営利活動法人バディチーム
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インタビュー 2022.08.25

【他団体・多職種による情報共有・事例検討会】vol.1 社会福祉法人 子どもの虐待防止センター

6月29日(水)、日本財団の助成事業『訪問型養育支援強化事業』の一つである『他団体・多職種による情報共有・事例検討会』の第一弾を開催しました。

 

ご参加いただいたのは、子どもの虐待防止のために電話相談やグループケアなどを行う「社会福祉法人 子どもの虐待防止センター(CCAP)」(以下、虐待防止センター) で相談員をされている青木郁美さんと松下清美さんです。

青木さんはバディチームの子育てパートナーとして、松下さんは妊娠葛藤相談や妊婦のための居場所づくりを行うNPO法人ピッコラーレの理事としても活動をされています。

 

今回は2021年度の活動報告をもとに、親や養育者の支援事業である「電話相談」、「MCG(Mother and Child Group)、「CCAP版 親と子の関係を育てるペアレンティングプログラム」についてお話をお聴きしました。

 

 

 

「社会福祉法人 子どもの虐待防止センター(CCAP)」は、子どもの虐待を早期に発見し、虐待のない子育て支援をするために、1991年に設立された民間の団体です。

1997年に社会福祉法人の認可を受け、研修を受けた相談員と医師、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、行政経験者、教育関係者など、多くの専門職がボランティアで子どもの虐待防止のために活動しています。

(虐待防止センターのパンフレットより)

 

お母さんからの電話相談は本質的なことは変わらない

―まずは電話相談のことから教えてください。ここ数年、今までより増えていると聞いています。新規相談だけではなく、再相談も多く、内容も虐待相談、家族関係の相談、療育に関することなど様々だと思いますがいかがでしょうか。

 

青木さん(以下、青木):基本的にはお母さんからの相談が多いのですが、コロナ禍や育児休暇が普及してきたからでしょうか、お父さんやおばあちゃんからの相談も増え、ここ何年かは内容が多様になっている印象です。

 

お母さんからの相談は、本質的には以前から変わらないように感じています。子育てのしんどさ、イライラ、いっぱいいっぱいで子育てに自信がないなどの相談が多いです。

お父さんからは、コロナ禍になり自分も子どもの面倒をみるようになって、「子どもと1日中一緒にいる大変さがわかった」とか、「子どもをきつく怒ってしまった」と後悔されている電話もあります。


松下さん(以下、松下):
行政の支援につながっていたのに途中から切れてしまった方、保健師さんや行政とつながってはいるが話は出来ない、ファミサポも知っているけどお金がかかるし、登録に手間がかかる、今預かってほしいのに予約が必要と言われてしまう。また保育園や幼稚園の先生に相談したいがどう言えばいいかわからない、などの相談もあります。

 

匿名の電話相談だからこそ、安心して話してもらえる

―電話を受けるお二人からは、お母さんたちの詳しい情報をお聞きすることはないのですよね?

 

松下:個人情報的なことはお聞きしないです。

 

青木:そこが行政との違いだと思います。民間の1回性匿名性の電話相談だから、安心して話してもらえるのだと思います。

 

「子育ては母親がやって当たり前」という風潮の中、上手く出来なくて自分を責めているお母さんが多いです。誰にも言えない、言っても受けとめてもらえない、でも誰かにわかってほしいというお母さんの気持ちに寄り添いながら聴いています。

 

地域に相談できないから、まずここに相談するというお母さんもいらっしゃいますね。

地域の支援につながったほうがいいと思うお母さんには、「同じように保健師さんに話してみて。保健師さんは家庭訪問してくれるよ」などと伝えています。


―電話をされる方は何を見てかけてこられる方が多いのですか?

 

松下:最近はネットが多いでしょうか。

 

青木:「『虐待』『子どもが可愛くない』などのワード検索をしたらここが出てきた」「行政からもらった虐待防止センターのパンフレットを何かのときに使おうとずっと持っていました」という方もいます。

 

―今はネットが主流になっていますが、電話というツールが段々減ってきていると感じることはありますか?

 

青木:何年か前は「電話はもう古いのかしら」と思ったこともありましたが、コロナになってまた人とつながる大切さが見直されてきたのかなと感じています。

先日のお電話でもお母さんが切り際に「人と話すことは楽しいことだった、というのを思い出しました」と仰っていました。人と人とが直接対話する電話相談の必要性を感じました。

 

―息遣いや声のトーンなど、電話だからこそ伝わることがありますよね。

続いて、再相談についてですが、電話は前回受けた方と同じ相談員が受けられるのですか?

 

青木:そのときに電話を受けた相談員が対応します。

 

―相談員のお名前は伝えるのですか?

 

松下:それもありません。

 

―相談時間は人によってまちまちかと思いますが、大体何分ぐらい話される方が多いですか?

 

青木:40分から1時間ぐらいですね。

 

―1時間ぐらいとなると、じっくりと話せて聴いてもらえるのですね。

継続して何度も電話をかけてくる方もいらっしゃるのですか?

 

青木:はい、いらっしゃいます。相談電話は開設して31年になりますので、最初のお電話のときには小さかったお子さんが今は成人された、という方もいらっしゃいます。

 

この次に起こる嫌なことの前に、自分の気持ちを落ち着かせ、心の準備をするために電話をかけてきてくれる人もいる

―子どもが成長してもその時々で悩みはありますから、いつでも聴いてもらえる場があるのは本当にありがたいことだと思います。

電話相談の中で印象的なエピソードはありますか?

 

松下:お風呂に入りながらや、掃除機をかけながらかけてくる方、子どもがギャーと泣いているところでかけてくる方などがいらっしゃいます。

そういう電話を受けると、今の大変さを誰かにわかってほしいと思っていらっしゃるのかなと思います。

お風呂に入りながらかけてくる方も、お風呂を出たあとは子どもと対面しなくてはいけないから、それまでに気持ちを吐き出しておきたいのだろうなと思うのです。

 

自分の気持ちを落ち着かせるためや、この次に起こる嫌なことの前に、心の準備をするために電話をかけてくれる方が多い気がしています。

 

青木:本当にそうですね。電話は「今、この時」というときに、すぐにどこからでもかけられるのが良いところです。

先日、電話に出た時、最初は笑っているのかな?と思ったら、子どものように嗚咽しながら泣いている声だったんです。「ゆっくりでいいですよ」と声をかけて待っていると、少し落ち着いてから「怒鳴っちゃった。子どもに申し訳ない。どうしよう…」と話し出されました。

 

電話をかけようと思った時の苦しい気持ちをたくさん話してもらって、少し気持ちが軽くなって目の前の子どもに向かえるといいなと思って聴いています。

 

松下:道を歩きながらのお電話も結構ありますね。「今、ここでかけておかないと」と思われるのでしょうか。

 

子どもと一緒にいる時だけではなく、子どもと離れている時にかけてくる方もいます。

私たちは専門家ではないので、「お母さん同士」というような関わりをしたいと思っていますし、「ここならどんなことを話しても怒られないわ」と思ってもらえたらいいですね。

 

―初めて電話をかける方は緊張もあると思いますが、だんだん慣れてくると上手に使ってくれているのですね。

 

松下:初めての方は私たちも少し緊張しますね。またかけてきてくれたのがわかると、「良かった」と思います。

 

青木:最初は、批判されるのではないかと思ったり、(内容を聞いて)「通報しますか?」と心配される方もいます。

 

「虐待」という言葉の重み。虐待防止センターだからできること

―先ほど、通報されることを心配するお母さんのお話がありましたが、「虐待」という言葉の重みについてはどう思われますか?

 

青木:「子どもの虐待防止センター」という名前については何度も話し合っているのですが、この名前だからこそ、「虐待が気になっているお母さんが電話をかけてこられるんだよね」という意見が多いです。

 

松下:「子どもを叩いてはいないんだけど…」と言われたり、「これは虐待でしょうか?」と聞かれることもあります。自分がしていることが虐待ではないかと心配し、かけてきてくれる方も多いですね。

 

青木:相談の入り口が子育てのことだとしても、その奥にある「思い」が虐待防止センターだからこそ出せるのではないかという気がします。

 

松下:自分の成育歴や自分の母との関係を話してくれて、その中でだんだん子どもとのことを整理していくという語りになることもありますね。

 

青木:「親にされたことを子どもにはしたくないと思っていたのに、同じことをしてしまった」と自分を責めている人には「同じじゃない。そのことがわかっていて、自分を変えたいと思ってここに電話してくれた。一緒に考えていこう」としんどさを聴かせてもらいます。

 

「大変なのは自分だけではない」とわかることはすごく力になる

―続いては、グループケアの「Mother and Child Group(マザー・アンド・チャイルド・グループ)、以下「MCG」)」ついても教えてください。

育児不安や虐待など子どもとの関係に悩むお母さんのためのグループとのことですが、定期的に開催されているのですか? 

 

青木:毎月第2、第4の火曜日の午前中と土曜日午後に開催しています。

その他に、子どもと分離された経験のあるお母さんのグループ「チョコっと」、支援者のためのグループがあります。

 

―どんな感じで進めているのですか?

 

青木:「言いっぱなし、聴きっぱなし」と言っていますが、その日に参加したお母さんが円になって座り、一人ずつ順番に話していきます。

テーマは決めていません。その時に感じていること、話したいことを自由に話し、他の参加者の話を聴く中で、自分を見つめる時間になります。

 

いつも、すごいな、温かい場だなと感じるのは、新しいお母さんがいっぱいいっぱいのつらさを話すのを聴いて、先輩のお母さんが、励ましになるようなことを、自分の話としてさりげなく話してくれることです。それを聴いて、新しいお母さんの表情から硬さがとれていきます。

「こんな思いをしているのは自分だけではなかった」とわかることはすごく力になると思います。

 

「お母さんではなく、その人自身」でいられる場の大切さ

松下:私たちは最初にこの場を安全にするためのお約束を読みますが、あとはお母さんたちがこの場をすごく安全にしてくれていると感じています。

 

1時間半のグループが終わったあと、最初入ってきたときには暗い顔だった方も表情が明るくなって、少し元気になって帰っていかれると「いい時間だったんだな」と思います。

また、MCGは子どもと離れてお母さん一人だけで座ってもらうことが原則です。保育が必要なお子さんがいる時は別の部屋で保育しています。

「お母さんではなく、その人自身」でグループに参加してもらうことがすごく大事だと思っています。

 

―そのままを受け止めてもらえるグループはお母さんたちにとって安心できる時間ですね。

「○○ちゃんのお母さん」ではなく、「その人自身」でいられる時間もとても貴重だと思いました。

続いては「CCAP版 親と子の関係を育てるペアレンティングプログラム」について教えてください。暴言や暴力を使わずに子どもを育てるスキルを身につけるためのプログラムとありますが、どんな内容なのでしょうか?

 

青木: 子どもの虐待防止センターのオリジナルプログラムで、子育てに悩む多くの親御さんの声を聞いてきた相談員が作りました。

グループ形式で心理教育を取り入れた講義とロールプレイで子どものできているところを認める声かけをする「実況中継」などを体験し、子どもや親自身の気持ちに気づいていきます。その気づきが親と子の関係に変化をもたらし、親と子のコミュニケーションを育んでいきます。

子どもとの関係を変えたいと思った親御さんが誰でも簡単に安全に使えるプログラムです。

 

―実際に体験してもらいながら行うのですね。子どもとの関わりで悩むお母さんたちにとってはニーズもあり、多くの人に知ってもらいたい内容ではないでしょうか。

 

最後に、お二人が活動の中で感じていることを教えてください。

青木さんはバディチームの子育てパートナーとしてもご活躍いただいていますが、両方の活動を通して見えてくるものはありますでしょうか?

 

お母さんに、一人で頑張らなくてもいいよと伝えたい

青木:電話相談を聴いていて、電話の向こうでひとりぼっちでいるお母さんのところに行けたらいいなって思うことがあります。何をしても泣き止まない子どもの前で途方に暮れて「こんな時、誰かがそばにいてくれたら」とおっしゃる方もいて。

そこで、訪問型支援のバディチームさんに登録しました。

バディチームの子育てパートナーとして伺うのは、すでに行政の直接の支援につながっている方ですが、そこまでのハードルが高いと感じます。

 

有志で月1回ひろばを開催していますが、お母さんの話を伺うとそれぞれに悩みがあって困っていることがあります。

子育てのマイナスの気持ちを言葉にするのは、電話であっても怖いこと。行政に相談するのはさらに勇気のいることだと思います。「大丈夫」と言うお母さんに、もう一歩踏み込んで話が聴ける体制ができたらいいと思います。

一人で頑張らなくていいよと伝えたいです。

 

―松下さんはピッコラーレさんでの活動のきっかけも含めて、教えていただけますでしょうか?

 

0歳の死亡を減らさなければ、虐待は解決できない

松下:ピッコラーレで活動したいと思ったきっかけは、※「0歳死亡の対策」をしたいと考えたからです。ピッコラーレの活動を通して、家庭にも社会にも居場所がなく孤立し、ひとりで妊娠を抱えてどうしようもない状況に追い込まれている方たちにたくさん出会ってきました。

その方たちが母になり何とか家庭を作った、でも苦しい、という声を受け止めているのが虐待防止センターの電話相談なのかもしれないと考えるようになりました。

 

虐待防止センターの電話で、「私の頃は今みたいに子どもを大事にしてもらえなかったから、私は助けてもらえなかったの」「今は虐待防止ということをみんな知っていて、子どもは守らなきゃいけない存在だってみんな知っているから、今の子どもはいいなって思う」と話す方も少なくありません。

それはつまり、「自分は誰にも助けてもらえなかった」という思いをずっと抱えてきたということなのだと感じます。

 

そういう声は虐待防止センターにたくさん集まっているので、その声を行政の子育て支援サービスを行っている方たちに届けたいと思うことも多くあります。

 

子育て支援サービスも以前よりは充実してきていますが、利用したいお母さん一人一人に合ったものにはなっていないのも現実です。

「生後6か月から」とか「無料券利用は10回まで」とか制限があります。

大変になる状況は人によって様々ですので、それぞれに合った支援のかたちを作ることができたら、子育てももっと楽になるのではないかと思っています。

 

―青木さん、松下さん、貴重なお話をありがとうございました。

 

※「0歳死亡の対策」
厚生労働省の調査によると子どもの虐待死で一番多いのは0歳児で約半数を占めている。中でも「0歳0か月0日」で亡くなる赤ちゃんも多く、背景として「望まない妊娠」の予防や対応が不十分であることが指摘されている。

 

▼社会福祉法人 子どもの虐待防止センター
https://www.ccap.or.jp/

▼NPO法人ピッコラーレ
https://piccolare.org/

 


【編集後記】

今回のお話を通して、あらためて『話を聴くことの大切さ』と『民間団体だからこそできること』を見つめ直しました。

電話相談もグループケアも行政とは違う立場で、お母さんたちと同じ目線で寄り添う支援であり、それを必要としている人がたくさんいます。また、人は誰かにただただ話を聴いてもらい、その人自身を尊重されることで力を取り戻し、もう一度前を向いて歩いていこうと思えるのだと感じました。バディチームも決して指導的な立場ではなく、家庭が必要としている家事や保育のお手伝いをしながら家庭に寄り添うことを目指しています。

そして、子育てに困っているお母さんたちに向き合うのと同時に、声すら上げられない人たちのために、大変な時は誰でも気軽に「助けて」と言える社会に変えていかなければなりません。

子育て支援においてはそれぞれの立場や役割がありますが、お母さんたちの「生の声」を知り、直接関わっている私たち民間団体はそれを伝え、行政などにも働きかけていく必要があるのではないでしょうか。虐待防止のためには現場の声を反映し、理解した上での体制づくりが必要です。

来年度にはこども家庭庁の設立が決まり、再来年度には児童福祉法が改正されるという国の大きな動きがありますが、新たに何かを始めるだけではなく、今、子育て支援に携わっている関係者がそれぞれの立場で、さらに一歩踏み込んでみることも大切だと思いました。(文責:事務局 青木)

 

日本財団助成事業『訪問型養育支援強化事業』についてはこちらのページをご覧ください。

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